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18.合宿 3

 


 博物館はさほど大きなものでは無かった。

 2階建ての施設で一部が吹き抜けになっていてそこには大きなクジラの骨が展示されていた。


「そういえばランベルト殿下はお一人で水泳中ですか?」


「いや、国王陛下の代理の仕事が急遽入って、こちらには来れないと連絡があった」


 流石に陛下の代わりの仕事では、優先順位が高すぎる。水泳どころではないので、学校としても一も二もなく了承しただろう。


 エリアス先輩だって大怪我してるんだから休めばいいのに。


 いや、朝イチで主治医が診にきているんならきっと公爵邸では止めたんだろうな。でも先輩意外と生真面目で頑固だから勝手に馬車を走らせて来たんだろう。



 私達はゆっくりと館内を見て歩いた。近隣に上がる魚の生態などが標本とともに展示され、私達は順路にそって説明書きを読んでいった。


「へー、意外と面白いですね」

「ああ」


 物珍しいこともあって、私は立ち止まっては説明を見て、標本や骨をじっくりと見ていた。


「ソテーやカルパッチョを食べる時、魚の骨の構造なんて気にしなかったですけど、こうしてみるとなかなか興味深いと······」


 ふと、左手に熱を感じて私は振り返った。

 私の指先に、先輩の指が絡みついているのが視界に入った。


「エリアス先輩?」


 先輩は暫く押し黙っていたけど、落とした視線を彷徨わせてから、ゆっくり私を見つめた。


「迷子になるといけないから」


 迷子になる?

 誰が? 私が?

 これぐらいの建物で? 来場者がほぼいないのに?


 私がじっと見つめ返すと、先輩はまた視線を落とした。


 ははーん。そうか。

 私はピンと来て、先輩の指を手繰り寄せ、手をぎゅっと掴んだ。


「そうですね。手、繋ぎましょう」

「······いいのか?」

「勿論。先輩ったら早く言ってくださいよ」

「何がだ」

「僕は、平民街に出るの慣れてるんです。昔っから変装しては屋敷抜け出してたんで。だから割とあちこち簡単に出歩いちゃうんですけど、先輩、根っからのお坊ちゃんなんですもんね。そりゃあ迷子にもなりますよ」

「え?! 違······!」

「さあ、次見ましょう。僕、軟体生物とかも見てみたい!」

「あ、ああ·····」


 戸惑うような声が聞こえたけれど、掴んだ手は振り解かれることはなくて、館内を歩く間、先輩はずっと私の手を握っていた。


 エリアス先輩の手が思っていた以上に温かいのを、私は初めて知った。



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