14.夏休みとおかしな先輩
王城での舞踏会が終わって暫くすると、学校は夏休みに入った。
お父様に長期休暇に帰って来ないことを嘆かれたが、去年は叔父上の領地で遊んだあとはちゃんと実家に帰ったので別にそんな泣かなくてもいいのではと思ってしまう。
ただ今年はランベルト殿下の仕事のお手伝いがあるので、ヴァルテンブルク国に残ろうと決め手紙を書いたが、涙でブレた文字の返信が返ってきた。
秋にはブルクハウセン国でまた舞踏会があるため、殿下にひっつきエリアス先輩と3人でブルクハウセン国に行かなけれなならないし、今は無理に帰省しなくても良いかと考えたのだが、お父様の考えは違ったようだ。
「学校の貴賓室ではなく明日からは王城に来て仕事をしてくれ」
舞踏会後暫くたつとランベルト殿下にそう言われたので、夏休み期間、私は週に2日寄越された馬車に揺られて学校の寮から王城まで通って仕事をし始めた。
「外国人が登城する手続きが大変だから貴賓室で仕事をしていたんではないのですか?」
登城初日、ランベルト殿下にそう問うと、殿下からは「犬が吠えないからもう大丈夫」とよく分からない解答が返ってきた。イマイチ解せない。
そして、最近一つ困ったことが出てきた。
「エリアス先輩、この数式合ってます?」
「あ······ああ」
王城のランベルト殿下の執務室の隣室で、私とエリアス先輩は仕事をさせてもらっていたが、それが終わると、私は夏休みの宿題を先輩に教えてもらっている。
エリアス先輩は、チョロいし殿下ラブだけど、こう見えて成績はかなり良いのである。
だけど、先輩はこの頃様子がおかしい。
「先輩、ちゃんと見てくれてます?」
「ああ」
「1+1は?」
「あ······ああ」
この有り様なのである。
舞踏会以降、エリアス先輩は私と目が合うと直ぐに視線を反らしてそっぽを向いてしまうし、しかも話しかけても「ああ」ばっかりで反応が薄い。
最初は体調でも悪いのかと思っていたが、何日経ってもこの状態で、まるで改善が見られない。私に睨みを効かせていたかつての先輩に会いたいぐらいだ。
「もういいです。エリアス先輩、全然聞いてないんですもん」
「え······いや、聞いてる! 聞いてるぞ!」
「僕、これでも勉強は真面目に取り組んでいるんです。だから、他の人に教えてもらいます」
「他······他の男か?! 誰だそれは?!」
「明日から暫く叔父上の領地に遊びに行くので従兄のルイ兄様に教えてもらいます」
「ルイ・リーネルか?! あんな優男のどこがいい?!」
優男だろうと何だろうと、勉強には関係ない。
上の空のエリアス先輩よりはよっぽど頼りになるだろう。
「二人共、面白すぎる会話をしないで。私は一人で公務をこなしているのだから」
ランベルト殿下は書類に埋もれたまま言った。
夏休み明けには合宿が待っている。
単位に引っかかるから休めないけど、海水浴は私にはどうしたって出来ないからあまりよい評価は貰えないのは目に見えている。
だからこうして座学の方は力をいれて頑張っているのだ。
エリアス先輩のおかしな精神状態に付き合っている暇はない。
「た、頼む! ちゃんと教える! 教えるから!······他の男のところになんか行くないでくれ!」
「もう······ちゃんと僕のこと見てくださいね? ちゃんと僕の話を聞いてくださいね?」
「見てる。ずっとレフィを見てるから······!」
やたら目がキラキラし始めたエリアス先輩に、ランベルト殿下が机を叩いた。
「ぶふっ!! あははははは!! あーもう······お前ら何なの?ホントもー······今日は解散だ。やってられん」
ランベルト殿下が盛大に吹いて、この日は終了となり、私は寮に戻りリーネル侯爵家の領地に向かう準備をし始めた。
明日から2週間お休みを頂いて叔父上の領地で遊ぶのだ。
エリアス先輩には悪いが、残りはルイ兄様に見てもらいながら宿題を仕上げようと私は心に決めた。




