13.舞踏会 4
「エリアス、ローゼンハイン君。一通り回ったから、君達は少し踊っておいで」
挨拶回りを終えたランベルト殿下が、私達にそう告げたのは舞踏会ももう終盤だった。
「もう通訳は大丈夫なのですか?」
「向こうの王太子殿下がそろそろ退出されると伝言があったからな。君達も最後くらい楽しめ」
ランベルト殿下はそう言うと、従者のフィンさんが持ってきた飲み物を口にふくんだ。
「何故、俺が女装したこいつとダンスを?」
「エリアス。今日はお前がエスコートしてるんだ。一曲ぐらい構わないだろ?」
「まあ······殿下が言うなら」
ランベルト殿下の鶴の一声で、私達はダンスフロアに移動した。
「レフィ。お前、女性パート踊れるのか?」
「踊れますよ。勿論男性パートもいけますけど」
「お前、昔から女装趣味でもあったのか?」
「ふふ。男装だろうが女装だろうが僕は僕ですよ。先輩」
そう言うとぎゅっと背に周る腕の力が強くなった。
流れる緩やかで優美な曲に私達は身体を預けた。
ナチュラルスピンターンからリバースターンへ。
ああ、先輩のリードはとても上手い。
慣れないはずのヒールを履いた足が、先輩と同じ動きで曲に乗る。
ピッタリと重なる身体に自重が上手く乗ると、羽が生えたように軽く踊れて、私は思わず先輩を見ながら嬉しくて微笑んだ。
「レフィ······お前、そんなに華奢だったか?」
「ふふ。そんなのどうでもいいです。エリアス先輩、踊るの楽しいですね」
「そうだな······楽しいな」
ほんの少し、先輩の顔が私に近くなって、優雅にリボンで括られた蜂蜜色の美しい髪が、ダンスのステップと共にキラキラと光を含んで舞った。
王城のホールはまるで光が雪のように降ってきて、なんだか珍しく夢見心地な私はすっかり乙女モードで、目の前にいる先輩のサファイアのような青い瞳とただ見つめ合っては微笑み、奏でる音楽に身を任せた。
楽しい。
嬉しい。
こんなふうに他国の城でダンスすることも
毎日男のふりしたりすることも
予想なんてしてなかったけど
予想すら出来なかったけど
ランベルト殿下に声をかけられて
エリアス先輩と知り合って
知らなかったヴァルテンブルクを知れて
毎日、毎日、楽しくて
一つ、また一つ
私はこの国が、この国の人達が好きになっていく
「エリアス先輩、私、この国に来れて良かった。先輩と知り合えて良かった」
「······俺もだ」
私達は暫く曲に身体を預けたまま回り続けた。
エリアス先輩の深く青い目がいつもより潤んでいたのは、キラキラしたシャンデリアのせいだと私は思っていた。




