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11.舞踏会 2

 


 会場内でランベルト殿下を探したが、殿下も国王もまだいらっしゃっていなかった。


 キョロキョロと周囲を見回すと、初めてのヴァルテンブルクの王城のホールはブルクハウセンよりも大きく華美で、国力の差を感じざる得ない。


 中央のシャンデリアは大きく煌びやかで、それに負けじと小さなシャンデリアがあちこちで光を放ち、白く美しい壁の要所要所にはには金細工が施されていた。


 だけど舞踏会自体はブルクハウセンのそれと、おそらく然程変わりはない筈だ。数は少ないが祖国で夜会には何度か出ている。大丈夫だろう······多分。


「レフィ!」


 向こうからやってきたのは伯父のリーネル侯爵だった。

 叔父上はお母様の兄にあたる。小さい頃からこのヴァルテンブルクにお母様が里帰りする度に私もついてきて可愛がってもらった。


「叔父上······お久しぶりです!」

「ははは! お転婆レフィは今日はちゃんと淑女しているじゃないか」


 相変わらず明るい叔父上は、しばらくぶりの私の姿を視界に入れると目尻の皺を増やしたが、隣にエリアス先輩がいることを思い出した私は、咳払いを一ついれた。


「ああ、クライン家のエリアス君。レフィのエスコートにたってくれたのかい? 久しぶりだ」


 先に声をかけたのは叔父上だった。家としてはクライン公爵家の方が格上だが、現状では爵位を継いでいないエリアス先輩より叔父上の方が目上となる。


 私が男装している事実を叔父上は把握しているので、本名の『レフィリアーナ』では呼ばず愛称の『レフィ』のままで通してくれるだろう。上手く会話を調整してくれるはずだ。


「リーネル侯爵様。お久しぶりです」


「ああ。レフィがいつも迷惑かけてすまないね。ヴァルテンブルクにいる間は私がこの子の後見に立っている。王太子殿下や貴方に迷惑がかかることがあれば私が謝罪させてもらうよ」


「迷惑なんかかけてませんよ、叔父上」


 謝罪ありきの挨拶に私は反論したが、エリアス先輩は私を見ながら「本当に。人をよく巻き込む後輩です」と頷いた。


 先輩の一言に、私は一瞬目を見開いた。


 エリアス先輩が、あの仏頂面で私を嫌っていた先輩が、私を『後輩』と言ってくれた。


 その一言が妙に嬉しくて、思わず私は先輩にわざとつっかかってしまう。


「エリアス先輩は僕に巻き込まれると嬉しそうにしてるでしょう?」

「誰が嬉しいもんか。いつも無駄口ばかりきいて」


 私と先輩の会話を聞きながら、叔父上がニコニコと笑っていると、見慣れた髭の男性が近づいてきた。


「レフィリアーナ!」


 突然ブルクハウセン語で話しかけてきたのは、父上だった。本名を叫ばれドキリとしたが、私と同じ水色の瞳は酷く心配そうに潤んでいた。


「お、お父様······!」


「ああ、レフィ!! 心配していたんだぞ?! 何故長期休暇に帰って来ないんだ! 手紙も少なすぎるぞ!」


 娘に甘いお父様は矢継ぎ早に私に言葉を放つが、私は「ごめんなさい」と一言言って笑って誤魔化した。


「落ち着けよ、リアン」

「ああすまない、アーノルド」


 若干興奮気味のお父様に、叔父上は同じブルクハウセン語で嗜めた。


 その様子を言葉の分からないエリアス先輩はポカンとした様子で見ていたが、叔父上がお父様を紹介すると先輩はお父様に綺麗に腰を折って挨拶をしてくれた。


「お初にお目にかかります。ヴァルテンブルク国クライン公爵家嫡男のエリアス・クラインです」


「ブルクハウセン国ローゼンハイン伯爵家当主のリアン・ローゼンハインです。お会い出来て光栄です。うちの娘が随分と世話になっているようで······」


「娘?」


「わああ! 言葉の綾です。父がヴァルテンブルク語を間違えただけです。そんなことより先輩! あちらに国王陛下とランベルト殿下がいらっしゃいました!」


 無理矢理殿下の話を振ると、エリアス先輩はそっちに意識を向けた。流石先輩の泣き所。殿下のお名で、一発で先輩の気持ちはそっちに向いた。


 そうだ。お父様は知らないのだ。ヴァルテンブルク国では私は男装して学校にいることを。


 親戚大集合のおかしな舞踏会はこうして幕を開けたのだった。



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