10.舞踏会 1
舞踏会は3週間後に開かれた。
今回はヴァルテンブルク側での開催なので、ヴァルテンブルク語の堪能なお父様が案内人となり、ブルクハウセン国のクリストフ王太子殿下がいらっしゃる。
「う······久々のコルセット······きつ」
1年以上男装生活を続けた反動で、女性としてドレスを身に付けるのが酷く辛く感じてしまう。
しかしながら、今日は2国間の記念祭前の大事な舞踏会。そして何故か親戚大集合の悲しい舞踏会でもある。
久方ぶりの令嬢メイクと着付けは、ドレスを用意してくれた城の使用人にやってもらった。流石王城使用人。化粧技術がとても高い。ハーフアップのスタイルは亜麻色の長い髪が優雅に見える洗練された髪形である。
ランベルト殿下に頂いたドレスはシルエットの美しいオフショルダーネックの水色のフープドレスで、背中が涼しいくらい開いているので姿勢を保っていないと見栄えが悪くなるため、私のインナーマッスル達にかなり鞭打っている。
「あ、エリアス先輩!」
玄関ホールで待ち合わせということで先に到着していたエリアス先輩にヒールで駆け寄った。
先輩は、鮮やかな青の上質な生地にキラキラと光る刺繍が施された夜会用のコート、ウエストコート、ブリーチズに絹のシャツとクラヴァット、絹の白い靴下を着用していた。
いつもは下ろしている蜂蜜色のサラサラの髪は後ろで束ねて同じ青のリボンで美しく括られている。
流石公爵家の令息。見事な着こなしだ。
だけど先輩は私を見るなりアホの子みたいに呆けていた。
「············」
「エリアス先輩?」
「······レフィか? 本当に······?」
ぽっかりと口を開く先輩に私は思わず笑った。
「ふふ、レフィですよ。というか先輩、初めて僕の名前呼んでくれましたね。知らないのかと思ってました」
「し······知ってる。いや、その······本当に、女みたいだな、お前」
そりゃあ本当に女ですもの。
「エスコートしてくださるんですよね?」
「あ、すまない······」
ぎこちなく出された腕を長い手袋を嵌めた指先で掴むと、先輩は何故か頬を染めた。
「え······いや、レフィ······ちょっと待て」
「先輩、今日は『貴様』とか呼ばないんですね」
「お、おちょくるなよ······お前······だって、その、本当に女みたいで······」
「僕の女装すごいでしょう? 顔も元から女顔だから、ドレスよく似合うでしょう?」
「に······似合う、けど······」
なんたって、本物の女ですからね。
「行きましょう、エリアス先輩」
「お、おう」
視線を泳がせる先輩とともに私達は会場に足を踏み入れた。




