1.プロローグ
ヴァルテンブルク国に留学を決めたのは、高等学院に入る少し前の冬だった。
お母様が亡くなった後、元々淑女らしからぬ性格の私がさらに奇行を繰り返している、と父のローゼンハイン伯爵が心配したことがきっかけだった。
父は、私が母を失い、動揺していると考えたらしい。
『奇行』といっても、暇を持て余して、ちょっと変装して屋敷を抜け出し遊びに行ってしまうだけなんだけど。
特に私は男装が得意で、個人的にも非常に上手く出来ていると自負している。
実は結構昔からやっていたのが、お目付け役のお母様が他界したのをきっかけに、ただ行動が悪化しただけなのを知らない父は、「違う国の風を浴びれば、少しは傷も癒えよう」と無駄なご配慮をしてくださり、私に留学話を持ちかけたのだ。
ただ、これは私にとっては僥倖だった。
だって若いうちに別の国に住めるなんて最高じゃない?
ヴァルテンブルク国は発展した大国だし、親元を離れると面白いこともきっと沢山ある。
幸いヴァルテンブルク国は母の祖国。
幼少期から語学は叩き込まれていたし、母方の親族もいるので、緊急時に頼れる場所もある。
「行く! 凄い楽しそうじゃない!!」
心配する父と弟を余所に、私は夢と希望に目をキラキラと光らせて留学の準備を進め、後ろ髪を引かれる事無く元気一杯に、祖国ブルクハウセンを後にしたのだった。