つれないメイド 欅家茉莉依
ひだまりのねこさま主催
『つれないメイド企画』参加作
「お帰りなさいませ、ご主人様」
茶色の髪をポニーテールにしてネコミミを付けた眼鏡っ娘メイドが恭しく挨拶をしながら出迎える。そばかすだらけだが明るい笑顔と人懐っこい表情と雰囲気がチャームポイントへと変えている。何度か見かけるベテランさんのようだ。
「ああ、ただいま」
ここはネコミミメイドカフェ「にゃトワール」
最近に足繁く通うようになったお気に入りの場所。たまたまメイド好きな相棒に連れてこられたが、とある理由から半ば常連のようになってしまった。
軽く手を上げてご主人様らしく鷹揚に応える。
「ご主人様、本日はご用命のメイドはございますでしょうか?」
話に聞く「キャバクラ」のように指名が入ると指名料がバイト代に加味されるようで、彼女も「私を指名して」オーラが見え隠れする・・・
良い店造ろうキャバクラ幕府だっけ?
「欅家茉莉依、いや『ショコラ』は空いているか?」
「『ショコラ』でございますね、少々お待ちを」
茶髪メイドさんはすぐさま端末を取り出して操作するとニッコリと応えてくれる。
「すぐに呼んでまいりますので、席でお待ち下さいませ。ご案内いたします」
スッと半身になって右手を進行方向へ出して歩き出す。クルッと半回転とともに短いメイド服のスカートがフワリと舞う。いやぁ、ニーハイソックスとミニスカとの間の太もものチラリズム、解ってらっしゃる!
席に座るとスマホを取り出し、これからの予定を確認しておく。二時間くらいはのんびり出来るな。
誰か近付いてくる気配で頭を上げればお目当ての『つれないメイド』欅家茉莉依、ここでは『ショコラ』が不機嫌そうな顔で挨拶をする。お得意のへの字口。
「お帰りなさいませ、旦那はん」(ムスッ)
「うちみたいな愛想ないメイド指名しなはるなんて、相変わらず物数奇なお人やねぇ」
美しい艷やかな黒髪にネコミミ美少女メイドが京都訛り混じりで口を開く。東京モンの俺にはよくわからないがホンモノの京訛りなのかな?
「ご注文は『ぶぶ漬け』でよろしおますな?」
「今北産業なのにすぐ帰れ、と? 相変わらずつれない娘だよね、茉莉依」
「旦那はん、ここでは『ショコラ』でっせ。冷やかしなら帰りなはれ」
ちょっと待て、一応客だぞ。ご主人さまだぜ?つれなすぎやがな、茉莉依・・・
「愛しのご主人さまは空腹なので何か食べたいなぁ(プーさん風)」
(ピーン)
「そやねぇ、新作のオムライスなんかどないですぅ」
何だか企んでいるような色が見えるが、何時ものすまし顔でツーン返事をするショコラちゃん。やれやれ、乗ってやろうじゃないの、カワイイメイドの悪戯に。
「ショコラのおススメを頼むよ、きっと美味しいものなんだろう?」
「スペシャルなオムライスやからちょっと待っといてぇな」
ふむ、オムライス。スペシャルといってもそんなに違いのあるものとは思えんが。卵が違う、具が違う。まさか、タバスコのソースでマスタードのオムレツとかじゃないだろうな・・・
あ、飲み物頼んどくんだった。
こういうちょっと時間が空くときにちょうどいいのが「小説家になったんせ」のweb小説。
「歩留まりのねこ」さんが自主企画の「メイドはつらいよ」にどんどん参加作品が上梓されていく。みんなメイドが好きだよね。
「お待たせしました、旦那はん。スペシャルオムライスでっせ♪」
ドン! ババん!!
ぶふぅぅぅぅ!! な、なんじゃこりゃ~~~!!
「ま、茉莉依、皿の下に誰かいるぞ?」
「アホいいなや、おらへんどすぅ」
「手が見えるが?」
「うちには見えまへんぇ」
・・・・・・・・
ぐ、ぐぐぅ・・・呪われたりせぇへんか? ほんとか? 大丈夫か?
はぁはぁ、ええか? ええのんか? さいこーか?
ええい、男は度胸、女は愛嬌( ;∀;)
バクっとイっタレやおら~~~!
「ん、んまい! ソーセージも冷え冷えじゃなくてちゃんと火が通ってるし、中も濃い味でオムレツの風味に負けてない」
「旦那はン、見かけで判断したらあかんぇ」
ちょっと得意げな顔に悔しい気持ちが・・・可愛いから許す!
茉莉依スペシャルを完食して、追加で頼んだコーヒーで喉を潤していると例のソバカスメイドさんがアナウンスを始める。
「ただいまから恒例のデラックスサービス付きピザの販売が始まりますぅパフパフ」
口で言いながらパフパフラッパを鳴らしている、あの娘あんな性格なのか。
なんでもそのデラックスなサービスとやらは指名のメイドに「あ~ん」で食べさせてもらえるものらしい。今日のデラックスはピザなのか。タイミング悪いな、食ったばかりだわ。
ツーンと澄ました顔で隣にいる茉莉依をチラ見。うん、悪くないかも。
「じゃあ、そのピザを頼む」
「オレもピッツァ」
「ピザ追加」
「いいね、デラックスサービスピザで」
どんどんデラックスピザの注文。ピザ、ピザ、ピザ、ピッツァ。
「ショコラちゃん、ここは?」
「肘でおますな」
(つれないメイドだな)
くるっと踵を返す時にクスッと微笑んだように見えたが気の所為だろう。
そんな彼女の微かなツンデレを楽しみにまた来ようと思う。