【後編】
――気付かないフリをしてた。私達の間に、大きな溝が出来ていた事を。
私、何十年も貴方と寝食共にして、授かった子供達を慣れない手付きで協力し合って育てて、“貴方と結婚して良かったな”って、今迄の人生を振り返りながら思ったの。此処最近になって、だけど…。
人気が無いに等しい公園のブランコに腰掛け、目を瞑り、文女は此れから如何しよう…と思案を巡らせるが、浮かぶ答えは住み慣れた家に帰る選択だけだった。
昨晩、定勇が唐突に別居の提案を出してきた時は、一瞬時が止った様な気がした。夢か現実か分らず、思わず其の提案に乗ってしまった自分に今更ながら後悔するが後の祭り。
「出てけ」と言われる前に家を出たのは、此れ以上傷付きたくなかったから。だから、後ろ髪を引かれる思いではあったが、何も言わずにしてきたのだ。
「……怒ってる、かしら?」
「あぁ…。怒ってるよ、滅茶苦茶に」
「!」
顔を上げると、息を切らし膝に手をつく中年男性の姿。額からは大量の汗を流してる。久々に走って疲れちまったじゃねぇか、とぶつくさ呟きながら、男はゆっくりと顔を上げ、左手で汗が伝ってる場所を拭った。
「定勇さ…」
「帰るぞ。話は其れからだ」
「………嫌です」
「…あ?」
定勇は、妻に触れようと手を伸ばすが、彼女が発した言葉を聞き、触れる寸前で手を自分の脇に戻し「何で?」と、何時もより低い声で訊いた。
「……別居…、したいんでしょ?」
「…………」
「子供達も独立したし、そろそろ頃合いじゃない…っ。縛り付け合う人生なんて、真っ平御免よね?」
「……………」
「最近じゃ、熟年離婚なんてのも――」
言葉が途切れ、公園内は静寂に包まれる。聞えるものといったら、二人の息遣いだけ。
文女は何が起きたのか分らず目を見開いた。視界は真暗に包まれ、何も見えない。耳元に届くは、心地好い音色。何年、いや何十年か振りに聴いた音だった。
「何で…」
抱締められていた。力強く、もう離さないよ、と言ってるみたいに。都合好い解釈かしら、と文女は自嘲的に笑う。彼女は、もう一度、今度は疑問形にして何で?と言った。
「……なぁ、文女。『女房と味噌は古いほどよい』っていう諺、知ってるか?」
「……え…?」
「意味は、味噌は古くなる程熟成して味が良くなるって聞いた事あるだろ?其れと同じで、女房も、長く連添った奴の方が互いの事理解し合ってるし、考え方だって其れなりに似る」
「………口説いてんの?」
「あぁ…。俺ぁは、余りに口下手なもんでね。こーゆう口説き方しか知らないんだ。まぁ、詰りだ、そのな…」
「分ってます。そんな貴方に付合えるのは、一生探しても私以外居ないんでしょ?」
「よぉーく分ってんじゃん。まっ、半分は、自意識過剰だけどな」
しっかし、安い口説き文句よね。ま、そんなんで口説かれてる私も、其れだけの価値って事か。そんな事をクスクスと笑い雑じりに言う女の手に繋がれた男の掌からは汗が滲む。
公園を後にした二人は、我が家へと続く道に沿って歩く。御互いに手を繋いで。
さり気無く定勇が道路側の方を歩くとか、其れに気付いても気付かないフリをして、文女は彼の肩にそっと頭を載せるとか、つい昨日までの自分達だったら、こんな風に御互いが御互いを求める事なんて無かっただろう。
満月に照らされた二つ分の影は、ゆっくりと一つに重なり、直後に其の場だけが男女の笑い声で小さく響いた。
「……さぁーて、文女。今夜辺り、また頑張ってみるか?」
「……アナタ…私を殺す気ですか?少しは、自分達の年齢を考えて物申してください」
「……………」
はてさて、此の後二人がどうなったかは、またの機会に話すとしよう。
end
後書き
はい、まず私が言いたいのは……何だこれェェェェ!!?((テメェが書いた産物だろうが!
いや、だって、ねぇ。此れは無いよね?
だって、最後の方グダグダだもん。いや、もう後編の出だしから駄目な気はしたけどさ、でもコレ、ねぇ?((なんかウザくね、御前
あ。。でも、実は結構気に入ってる話なので、『ゴミ置場』には送りません((そう言って、後数カ月もしたら送ってるクセに…
今回のタイトル名、「女房と××はよい」ですが、此れは、前編の「女房と畳は新しいほうがよい」と今回の「女房と味噌は古いほどよい」を掛けてこうなりました
初めて、此の二つの諺を知った時、何でも好いから此の二つを使った話を書きたいなと思ってコツコツと書いてたのですが、まさか、最後の最後までこう纏らないとは…泣けてきますね((もう諦めようぜ
ウチ…、ラブストーリー書くの向いてないのかなぁ((いや、そーゆう問題じゃねぇだろ!
初出【2012年7月11日】のまんまの文章の配列に後書きを改めて読んで……この頃、諺を使った話を書くのにハマってた気がします(`・ω・´)❤️
未だにラブストーリーを描くのは得意じゃないけど、書いてて楽しいから書く!!(*≧∀≦*)((←………。