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【前編】

「女房と畳は新しいほうがよい」ということわざがある。

まぁ、確かにそうだな。うん。だって、夜の営みが無くなってから、何年位になるっけ?と、そんな事を考えながら、定勇さだおは、妻の文女あやめをチラッと見遣り、ワザとらしく溜息を吐いた。


「なぁに?何か、言いたい事があるのかしら?」

「俺達、結婚して何年になるっけ?」

「あら珍しい。貴方から、そんな話が出てくるなんて。そうねぇ…、子供達も成人してるし、彼是かれこれ三十年って処かしら」


道理で何も感じないわけだ。変な意味じゃなくて。そう、此の胸を焦がす様な、体中がカーッと熱くなって、少し意識しただけでこそばゆい感覚がこないのだ。一緒に居すぎて麻痺してしまったのか、其れとも、もう妻に其のときめきは無くなってしまったのか。


「………別居…、してみるか?」

「…へ?」


自分で言って、自分で驚いた。自分の言葉に。そして、視界に映る妻の表情かおに。

何年も一緒に暮してると嫌でも相手のちょっとした変化には直ぐ気付くわけで、他の誰もが気付かなくても、自分だけは直ぐに気付く。文女は一瞬、顔を悲しげに歪ませた。其れは、今にも泣出しそうな顔で。


「あや…」

「そうね、互いの為にも好いし、してみましょうか……別居?」






――翌日。

定勇が目を覚ますと、毎朝台所で料理をしてる筈の文女の姿が無い事に気付き、なんだアイツ、こんな朝早くから買物か…と思いながら、ソファーに腰を下ろしテーブルに置かれたリモコンに手を伸ばす。視界に、白いものが映る。


「何だぁ?」


伸びていた手で其の白いものを引っ掴むと、顔の傍に其れを持っていく。メモ等に使う紙だった。其処に、何かが書かれている。定勇は目を凝らして、一文字ずつ読み飛ばさない様に声に出しながらゆっくり読んだ。


「えーと何々…『行き成りで御免なさい。でも、善は急げというし、だから、何も言わずに家を出ます』……って。えーとぉ…」


家を出た?アイツが?いや、ないない。文女はそんな度胸なんて無いし、何より、昨日の“別居”についての話だって、ほんの冗談だ。

定勇は、ハァ…と溜息を吐くと、ソファの肘掛けに頭を載せ、もう片方の肘掛けに組んだ脚を載せるとウーンと伸びをし、あー考えるの止めだ止めと、何もする気が起きなかったので其の儘二度寝をする事にした。




「んー…あ?もう夕方かぁ……」


結局寝て過ごした一日だったなと思いながら、男は、部屋の中を見渡す。どうせ、買物に行ってきたとかっていうオチだろ?大袈裟に、家出宣言の書置きなんかしやがって、そう妻に文句を言う為だ。

だが、此の部屋には居なかった。トイレか?そんなデリカシーゼロの思考が巡り、洗面所の方へ向ったが、此処にも居る気配を感じられない。


「おいおい勘弁してくれよ。好い歳扱いてかくれんぼでもしたいのか?」


其の後は、各部屋を巡り文女を探すが見付らない。体が疲れてきて、もう年かねぇとしみじみ思いながらも、変な汗が額を伝い、何かに対する憂いが拭えない。


「………なぁ…、嘘だろ?」


其処で、やっと妻の書置きが本気なのだと理解わかる。――いや、最初っから理解はしてた。唯、認めたくなかっただけ。


「男児たる者、妻の行動をイチイチ把握する等、言語道断」と、今は亡き父に言われた言葉。今思えば、あの人も唯、妻(俺にとっては母ちゃん)の事を知るのが恐かったのかもしれない。浮気してるんじゃないかとか、自分の悪口を近所の奥様に溢してんじゃないかとか。

まぁ母は、父を裏切らなかったけど。あ…、でも偶に、近所の奥様方に愚痴は溢してた。其れが、父に対するものだったかは、未だ知らないけど。


「……ったく。サッサと見付けて、問質さねぇと」


定勇は、財布と鍵と使いこなせてないケータイを手に取り、家を出た。妻を探し出し、何でこんな事をしたんだ?と訊いて、一言文句を添えたかった。

空は赤とオレンジのグラデーションから赤紫に変っていた。夜の象徴ともいえる月が顔を出してきた。そんな時間に五十、六十の女が出歩いてたら間違いなく不良とかに絡まれる筈だ。其れよりも早く見付け出さなくてはならない。


「何だろうな、此の高揚感…」


久々に感じた刺激。胸を焦がす様な、体中がカーッと熱くなって、少し意識しただけでこそばゆい感覚。そんな、初々しかった新婚時代の時の様な、いや、若干違う。

そう。此の気持ちは多分…。

男は自嘲的な笑いを浮べ、「なんだよ俺。アイツの事、滅茶苦茶愛しちゃってんじゃん」と呟いた。
















to be contnued…

後書き

ハイ。懲りずに、また「続く」を英語にした楽十です

大人の恋愛をテーマに書いたのですが、やっぱ、恋を知らないと書けないですね……あはは(汗)


私の中で、大人の恋愛って、別にエロスだけだとは思ってません。。

もっとこう、子供みたいに、素直に「好き嫌い」言えるものじゃ無くなって、相手の目とか気にして、素直になれない自分っていうのかなぁ((何だコイツ?何で上から目線?

兎に角、駆け引き?みたいな恋愛だと思ってます((結局何が言いたいわけ!?


初出【2012年7月10日】

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