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未来の恋愛事情

作者: 平野夜遊

 人類が恋愛をしなくなって100年以上が過ぎた。


 結婚と言う制度が廃止され、かなりの年月が経った。子供は体外受精で試験管の中で母体の中のように育ち生まれる。生まれた子供はそれぞれ個別に育つ。皆一緒の家と呼ばれる施設で育ち、ある年齢になるとそこから出て1人で生活するようになる。

 同じ環境、同じ生活、同じ学校。それぞれにあった仕事。何かに競う事もなく同じ事をし、服や生活用品も同じものが支給される。差別も誰かだけ優遇される事もない。その中で優秀な子達は別の施設へと行き、その能力を社会で役立てる様教育される。


 時は穏やかに流れ、犯罪などもなくなっていった。欲っする物がなければ、争いは起こらない。それでも何事かが起きる時はある。その時は厳罰でもって2度と社会には出られないようにする。最初は厳しすぎるとの声があったが、犯罪が目に見えて減るとその声も次第に弱まっていった。


 人は1人でも生きていける。

 それは素晴らしい事だと思う。争いのない、孤独を感じない社会は素敵だ。だがどうしても何かが足りない。そんな風に感じるようになってしまった。


 そう言う人間には人型のロボットが支給される。ロボットと生活する。不思議と人型の自分でない者(機械だが)と一緒にいると安心して満たされた気持ちになる。人は自分以外の何かを求めるように出来ているのかも知れない。


 さて、俺神田早樹はその1人だった。

 政府から支給された人型のロボットと生活して早1年。仕事も生活も順調。なのに何かが足りない。それでロボットと生活する事にした。そう言った気持ちになる者は皆そうしていたし、だから俺もそうした。

「おはよう。ブロッサム」

「おはようございます。早樹」

 今どきのロボットは優秀で見掛けも人間そっくりで、簡単な受け答えも出来る。表情も作れる。科学とは凄いものだ。

「今日も帰りはいつもの8時。夕食を一緒に食べよう」

「はい。お待ちしてます。お気をつけて行って来て下さい」

 とブロッサム。ブロッサムと言うのは子供の頃見ていたアニメの中に出てくる女の子の名前だ。機械に名前を付けるのは変かなあと思いながら、だが呼ぶのに「おいロボット」と言うのも何だなあとそう呼ぶ事にした。

 朝食を終え、家を出る。ブロッサムは玄関まで見送ってくれる。

「じゃあ行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」

 ブロッサムは笑顔で見送ってくれる。満ち足りた気持ち。仕事にも生活にも特に不満はないのだが、何かを求めて止まない気持ちと言うのは出口のない通路を延々歩かされているようで嫌だった。ロボット1つでこんなに気持ちが晴れやかになるのなら、良い事だ。

 今の社会はとてもいいと思う。昔は人は争ってばかりいて、常に満たされず人の物を欲しがるばかりで犯罪が絶えなかった。皆が同じと言う事は人の物を欲しがる事も羨む事もない。だから平和なのだろう。

 仕事を終え家に帰ると、ブロッサムが笑顔で出迎えてくれる。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 そうして一緒に食事。ロボットは簡単な手作業、給仕も出来る。ブロッサムがテーブルに料理を並べてくれる。栄養の考えられた食事がこれも政府から支給されている。便利だ。味も悪くない。

「いただきます」

 ロボットは食事をしないので、テーブルに着いて俺が食べるのを見ているだけ。だがそれでも心が温かくなる。食事の後はリビングでブロッサムと一緒に寛ぐ。

 施設では他の子供と一緒だったし、先生もいた。だがそのどれともこの気持ちは違う。ブロッサムは他の人間に支給されているロボットと同じ。そこにも差別はない。同じ顔の同じボディの、寸分たがわぬ造形。ロボットには性別がなく、その顔形は中性的に作られている。だが俺は女性だと思い、接している。昔の書物には恋愛の事が書いてあるものが多い。それを読んでも昔はそうだったのかと思うくらいで、特に感じる事はなかったのに。この気持ちは何だかその書物に書かれていた恋愛感情のように思う。

 ブロッサムと一緒にいると嬉しい。ブロッサムが笑うと嬉しい。家にブロッサムがいてくれると思うと家に帰るのが嬉しい。これが好きだと言う感情なのかも知れない。

 俺はブロッサムとの生活に満足していた。


 3年が過ぎた頃政府からロボットの返却を求められた。ロボットの貸し出しは3年と決められている。それ以降は延長の手続きがいる。俺は勿論、延長する事にした。そうでないとブロッサムは別の人間に支給される。それは何だか嫌だった。

 だがそこで気が付いた。延長したとしてもそれは最大10年まで。それ以降は別のロボットが支給されると言う。メンテナンスやら何やらの関係で、ロボットは大体が10年くらいでリニューアルされ、それまでの物はほとんどが廃棄される。

 ブロッサムが廃棄? ブロッサムにもう会えない? ロボットなのだから、必要なくなれば廃棄もあるだろう。機械には感情も命もない。だからただ廃棄されるだけなのだから、何も気にする事はないのだけれど俺はブロッサムがこの世からいなくなると思うだけで胸が苦しくなる。

 この感情は愛? 愛と呼ばれるものでは。機械に恋するなど、バカげている。正気とは思えない。だが、だが俺のこの気持ちは紛れもなく愛情だ。認めるしかない。

「ブロッサム。君が好きだ。離れたくない」

「私も早樹が好きですよ」

これが例えロボットとしてただ答えているだけだとしても、俺にはその言葉はとても胸に響いた。

俺はいろいろと考え政府にある事を訴ったえ出た。

 ブロッサムとの結婚だ。結婚とは男女が恋愛に伴いその延長でするもの。お互いがお互いだけを思い、一生一緒にいると言う誓いだ。

 今の世になり、とっくに廃止されていた制度。俺はそれを願い出た。

「ロボットと結婚? 貴方気は確かですか?」

「正気だ。どうしてもこのロボットと離れたくないんだ」

 これ以外どうしても思いつかず、そうしてこれが恋愛という感情なのだと、昔昔のように好きな相手と一生一緒にいたいと言う気持ちを形にしたものが結婚なのではと俺はそう思ったのだ。

 だがすでに結婚と言う制度自体がないし、ロボットとの婚姻など無理に決まっていると言われた。だが俺は引き下がらない。

「かけおちしよう」

「はい。ついて行きます」

俺は書物で読んだ反対された2人がかけおちすると言うものを実行してみた。だが何処へ行けばいいのか。第一ブロッサムの充電は1日しか持たない。充電器は家にあり、大きいものだし外で充電するのは不可能だ。結局俺は1日で家に戻った。

 だがこれが少々騒がれ政府では色々と話し合い、考えてくれたらしい。それでロボットの永久所持権を与えてくれる事になったらしい。

「これを結婚と考えて下さい。返却する必要はもうありません、ただメンテナンスにかかる費用を自己負担する事になります。それでよろしいですか?」

 俺は勿論承知した。メンテナンスにかかる費用はバカにならないが、それでもこれでブロッサムとずっと一緒にいられるのだと、その喜びの方が大きかった。


 こうして俺はロボットと結婚した人間一号となった。最初こそ変わった奴だと思われたが、それから俺のような者がどんどん出て、俺はすぐにロボットと結婚した変わり者ではなくなった。

 人はやはり自分以外の者を求め、愛するように出来ているのかも知れない。メンテナンスにかかる費用はすぐに政府が負担する制度が普及された。俺は愛のある生活を手に入れ、以前よりも増して生活が潤い、とても充実した日々を送っている。




 人類が恋愛をしなくなり、結婚と言う制度が無くなり人は採取された卵子と精子とをランダムに受精され生まれる。

 大人となる年齢になると、卵子と精子を提供するのを義務付けられている。だが年々その採取される卵子と精子は激減していった。身体の中で作られなくなっていった。

 そこで政府はいろいろと考え人型のロボットを作り、それを人間に支給してみた。するとまた卵子と精子が作られるようになっていった。不思議とその必要性がなくとも、身体が相手を求めるように出来ているのではと思われた。


 相手はロボットなので感情やら何やら何の問題もないし、そこに人の争いは発生しない。必要なくなれば廃棄すればいい。人ではないのだから何の問題もない。とても素晴らしいシステムだ。


 これが未来の恋愛と言うものなのかも知れないと、政府関係者は思った。


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