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いつもの喫茶店で  作者: けい
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夕暮れ

【夕暮れ】


「あぁ!あこさん、いらっしゃいませ!今日はどんな紅茶にしますか?」

店長が笑顔で迎えてくれた。

店長の猫さん。極度の猫好きで、そう皆から呼ばれている。

あことは私の愛称だ。「朝倉このは」なのであこだと言う。隠すこともないがとても気に入っている。

「猫さん、こんにちは!今日もグリーンルイボスティーをください!!」

頼んだ紅茶は、最近お気に入りのクリーンルイボスティー。

ルイボスティーにはまっていた私にとってこの紅茶との出会いは運命的であった。

一般的なルイボスティーといえば、鮮やかな赤色の水色と、独特の香りを持つのが特徴だが、グリーンルイボスティーは、ルイボスティーよりも少し赤みの薄いオレンジ色の水色に、まろやかでさっぱりとした味わいが特徴で、ルイボスティー独特の香りとは違った、さわやかさが特徴である。後味のさわやかさがたまらないのである。意外にもミルクティーとも相性がよく時折頼んでいる。今日はストレートだ。


席に着くと隣にいるのは先生。

「こんにちは、先生。今日は早いですね!」

私は席に着きながら声をかけた。

「あこさん、こんにちは。今日は入学式でね、新任の先生の歓迎会は別の日になったので、早く終わったんですよ。」

そう話してくれた彼は、学校の先生だ。ここの常連で私とも一年の付き合いになる。

彼はいつもアッサムの茶葉をミルクと一緒に煮だしてミルクティーにして飲んでいる。今日はデザートにアップルパイを選んでいた。仕事の後には甘いものが欠かせないと言っていた。エビラーメンにもはまってラーメン巡りをしているそうだ。

最近は体系を気にしてジムに通いだしたという。私も見習わなければ、と心の中で思うのであった。


目の前で猫さんが慣れた手つきで紅茶を入れてくれている。この時間が好きだ。動作を見つめていたら、「あまり見つめられると恥ずかしいですよ」と一言。「今日はどんな一日でしたか?」と続けて話を振ってくれた。

私はその問いに、今日の出来事を話しながら、紅茶を待った。

目の前に、暖かい湯気をたたせながら出てきた紅茶を眺めてから一口をすする。

(はぁ、暖かい)この一口が心を落ち着かせてくれる。一日の疲れを癒してくれる。

また頑張ろうと思わせてくれる。そして、また来ようと思うのである。


猫さんと先生と私。

愚痴やこの一週間であったことを話しながらあっという間に時間は過ぎていく。

ふと、先生が夢の話をしてくれた。


真っ暗な部屋に一人立っている先生。

遠くに光が見える。手を伸ばせばつかめそうだがその手は空を切ってしまう。

小さく童歌が聞こえてくる。暖かいその空間はまるで母に抱かれているような感覚に陥ったという。懐かしくてずっとここにいたいと思っていたが、無性にそこから抜け出したくてたまらなくなった。あがいてもがいていたらいきなり明かりが明るく広がった。

目を開けるとそこはいつもの寝室の天井だった。


体験したことあるような無いようなとても不思議な感覚になったという。

話が終わり、私たちはまた紅茶を飲み一息を入れる。

人の夢の感覚とは実際に体験した人でなければ分からない。興味を持って聞いても結局はその人だけの感覚なのだ。一度は考えたことがあるだろうか、人の夢に入ってみたいと。

ドラえもんの秘密道具があったら入れたのにと。


そう思いにふけっていたら、猫さんがふと、「はいってみますか?」と、まるで私の心を盗み見たかのように言葉を続けていた。

「人の夢を体験してみたいですか?一緒に体験しましょう!」

何を話しているのか、一瞬わからなかったが、ふと考えて、その答えは即答だろう」

「はいりたい!!」と私は答えていた。


すると猫さんはカウンターの下から、茶葉を出して、紅茶を小さなティーカップに作ってくれた。すっと出される紅茶。

「これを飲んで、先生に触れてください。眠気が襲ってくるので逆らわずに目を閉じて。

そうすれば先生と同じ感覚を味わえます。私も一緒にやるので怖がらないでくださいね。」

と説明してくれた。

好奇心とすこしの不安と、まじりあいながら私はその紅茶を口にした。

言われた通り眠気が襲ってきた。そのまま目を閉じもう一度目を開けたとき、先生の話していた光景が目の前に広がっていた。


驚いたが、声は出ない。手を思いきり広げてもそこには暗い空間があるだけだった。

そのあとは先生が話してくれた感覚が鮮明に体験できた。

もがいて再び目を開けたとき、そこはいつもの喫茶店だった。

「どう?面白かったかしら!」

猫さんの声がした。

まだ覚醒してない意識がそこにある。落ち着いて自分の前にある紅茶をすする。

「何ですか、この感覚!!今まで体験したことないですよ!なんですか!?」

猫さんに私は質問を投げかけた。

「この茶葉を使った紅茶を飲むと、他人の夢を体験できるのよ。ある人からもらったものなんだけど、私も体験するのは初めてなの。こんな感じになるのね!!」

と、興奮していた。


確かにこんな感覚は初めてだ。人の夢を体験できる。そんな不思議な出来事がまさか現実にあること自体が信じられないが、私は今実際に体験してしまった。

興奮している私と猫さんを横目に先生は何が起こったのかわからないといった表情をしていたのは気づくことがなくその日は営業を終了したのであった。


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