魔王「勇者たちが来るから最強武器を置いて歓迎することにした」
新年のお祝いムードの中、魔王城では魔物たちが宴を開いていた。
酒も回り砕けた様子で魔王も騒々しさを楽しんでいた。
「魔王様、手紙がきております」
「なんじゃ、今日は仕事をするつもりはないといっただろう」
部下が持ってきた封書の送り主を見た瞬間、その表情が一変する。
丁寧に開くとその中身をじっと見つめる。
その様子に周囲も雰囲気の変化を感じ取った。
「勇者がくる……」
とたんにざわりとさきほどまでとは違うざわめきが起きる。
「皆の者、支度をせよ!」
魔王はばさりとマントをはためかせると宴の席を後にした。
玉座に座った魔王に部下達が報告にやってくる。
「勇者の迎撃のために衛兵を門前に集結させました。ネズミ一匹見逃すことはないでしょう」
自信満々の衛兵隊長に向かって、魔王は目つきを鋭くさせる。
「ばかもの! 一度に襲い掛かったら全滅するじゃろうが。もっと小分けにせんか!」
「ははっ、申し訳ありません」
恐縮して退出する部下にため息をつく。真面目が取柄で隊長にと任命したが、このときばかりは彼の融通のきかなさにいらだった。
「魔王様、いいですかな」
「おまえか、聞こうじゃないか」
次に現れたのは深いひげを蓄えたドワーフだった。工兵隊長である彼とはつきあいも長い。年輪のように刻まれた皺の分だけ時間をともにしてきた。
「勇者たちの侵入を防ぐために仕掛けを設置しました。動く床に踏み込めばしびれる罠、さらにはランダムで転移するゲートもこしらえましたぞ」
「ほう、それはどの程度のものだ?」
「もちろん、程度はわきまえておるよ」
にやりと笑みを浮かべた彼に、魔王は満足そうにうなずく。
「そうだ、おい、あの武器はどうした。あれじゃ、あれ」
魔王は控えていた側近へと話しかける。鉄面皮という言葉がふさわしくおよそ表情を浮かべぬまま、魔王のあいまいな指示に即座に応える。
「あれ、と申しますと。西の魔王に新年の挨拶にと用意された魔剣ですか?」
「そう、それじゃ。あれをな、さりげなく宝箱にいれておけ。勇者が見つけやすい場所にだぞ」
「しかし、あれが手に入ると先方も楽しみになさっておりますので」
「構うことはない。あのじじいになぞ、鉄の剣を渡しても違いなどわかるまいよ」
能面の奥に感情を隠したまま、側近は部下へと指示を飛ばす。
「それと道のりも長くて疲れておるだろうから、回復の泉もちゃんと用意しておくのだぞ」
それからも魔王城はひっきりなしに人が動き続けた。
そうして三日後―――とうとう勇者がやってきた。
玉座の間へと続く扉が勢いよく開け放たれる。
巨大な空間には部屋への侵入者を見下ろす巨大な像が並び、差し込む陽光が計算されたように陰影をつくりだす。すべては玉座を目立たせる仕組みとなっていた。
「魔王おじいちゃん、来たよ! あけましておめでとうございます!」
そういって元気よく挨拶をしたのはやんちゃそうな男の子だった。
「おお、勇者や。ようきたのう」
魔王は玉座から立つと両手を広げて勇者を迎える。
「ん? パパとママはどうした?」
きょろきょろと見回すが、勇者のパーティーはいない。ひとりきりだった。
勇者はどこか自慢げに胸を張りながら言う。
「一人で来たんだ。神鳥にのってびゅーんって飛んできたからすぐだったよ」
それはかつて魔王城に攻め込んできた先代勇者がたどった道と同じであった。
単身攻め込んできた女勇者。幼い男の子にはその面影が残っていた。
「そうかそうか、城内は迷わなかったか?」
「うん、迷ったけどすっごく面白かった! 魔王城のみんなは強かったし、いろんな仕掛けがあったよ。あとね、すごそうな武器も拾ったんだ!」
背負っていた剣をなれない手つきで引き抜いて自慢げに見せつける。その刀身は魔力を帯びて妖しげな光をたたえている。
「それはのう、神に対抗するために鍛えられた剣だ。切れないものはないからな、無闇に人に向けてはだめじゃぞ」
「うん、わかった!」
素直にうなずく幼い勇者の頭に手を置く。甘くとろけそうな表情でなでる。その様子に魔王の威厳はない。
数日遅れで、政務を片付けて挨拶にきた勇者の父と母も交えて魔王城は騒がしさに包まれた。




