猫の手紙
にゃあ、とは猫の言葉を知らない者の擬音だろう。
大雑把すぎる。長さが違えば音程も違う。かといって単純ににゃあああ?などと啼かれても困るのだが。
そもそも人間の文字や声帯で表せはしない。文字や言葉を使わずに、では一体何の手紙なのか?
猫は昔から、魔法めいた存在である。
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人間が二人いる。
何か話しているようだ。血を流して倒れた人間のこと。
そして猫一匹、こちらはとりあえず関係ない。
二人が去った後も、多くの人間達が入れ替わりに訪れた。そこでは必ず何かを話してゆく。難しい顔をして二言三言、時には侃々諤々。
やがて遺体が片付けられた。
来る者も少しずつ減っていったが、ひとつだけ変わらないことがある。
猫だ。猫が出入りしていることは、昔から変わっていない。
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それが起こったのは、十日ぶりに人が現れたときだった。
猫と話している。無論、本当に言葉が通じているのではない。目で追ったり撫でたりしながら、独りごとを勝手に延々と。
そのうち驚きの声をあげて去り、忘れたように来なくなってしまう。
昼寝に散歩、お隣との喧嘩。いつもどおりなら、猫にとってどうでもよいことだ。
普通はこれで何事もなく終わる。しかし今回は稀な例だった。独りごとをした人間が戻ってきて、お前のお蔭だ何だと一方的に騒ぐ。
迷惑な話だ。土産の一つもあれば別かもしれないが。
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猫がいる。それは何も変わっていない。