3、南方第一段階作戦終結前後の動き
遂に下宿先に戻ってきてしまったカトユーです。長期休暇は素晴らしいものであった。残念なことに、数時間後には早くも現実に引き戻されるが。
今回は南方第一段階作戦終結前後の統帥部の動きです。
南方第一段階作戦は成功という形で終わった。しかし、内地(日本本土)の参謀本部は慌ただしいままであった。既に南方第二段階作戦の立案が進められていたのである。
シンガポールが陥落した頃には、軍民双方で様々な和平論が展開された。陸軍の一部では、シンガポール陥落を受けて対英講和を求める声が上がった。また、民間では独ソ和平工作を行い、ドイツを対英一本に集中させようという提案があった。
とは言えこれらの声は極々一部の人によるものだった。大半は戦争継続の意志を貫いた。また、独ソ和平に関しては、ドイツ軍の1942年夏季攻勢に期待する声が陸軍では根強かった。
俺個人としても和平が成立するという見込みは無かった。米英本土には全く被害もなく、国民の継戦意欲も高いだろう。とは言え、今の大日本帝国陸海軍に米英に手痛い一撃を食らわせる能力も無いだろう。
そんな中、3月には俺が関与しない形で新たな戦争指導の大綱が大本営政府連絡会議で決定した。ここでは詳細は省くが、未だに対英戦を主軸として対米戦を行うというものであった。対米戦に関しては、占領地の開発を進め長期戦不敗の態勢を築き、やがてやってくる米英の反抗作戦を挫いてやるというものであった。
南方第二段階作戦で重要だったのは、米軍はいつ本格的な反抗作戦を行うのかという点だった。これに対して、陸軍では1943年以降だろうというかなり甘い判断をした。ご存知の通り、実際には1942年の8月に米軍の反抗作戦が始まった。ガダルカナル島の戦いである。
陸軍の甘い見通しは海軍の意見を受け入れたからである。海軍の判断としては、真珠湾攻撃で大打撃を受けた米太平洋艦隊の再建には1年掛かるというものであった。これまた実際にはそれよりも早くに米太平洋艦隊は活動を開始した。
陸海軍共に楽観的だったのだ。
そこで俺は米軍の反抗は1942年中盤には始まるだろうという旨の意見を出した。理由として、海軍の真珠湾攻撃で艦艇や航空機の攻撃ばかりで、造船施設、石油関連施設の攻撃は不十分だったということを挙げた。
これに対して海軍はハワイ攻略作戦を行いたいという旨の返答をした。元々ハワイの設備は日本軍がハワイを確保した時にそのまま使いたかったからだと言う。これには陸軍全体がびっくりした。既に補給線が伸びきっているのに、更に遠くの場所まで行かされるのかと怒りを露わにした。海軍のフネと陸軍の兵は違うぞ!とハワイ攻略作戦については頑強に反対した。終いには「太平洋戦域は海軍の担当である。故にハワイ攻略作戦は上陸部隊も含めて全て海軍のみで行ってくれ」とまで言った。
こうなると海軍はハワイ攻略を諦めざるをえなかった。
話は振り出しに戻った。これからどうするのか、軍の上層部で纏まった意見が無いのだ。
すると次に出てきたのは、新大綱に沿った占領地を外郭の要地を確保するというものであった。要地を確保することにより防衛をより優位なものにすること、また攻勢の際には拠点とすることを目論んでいた。
そんな話の中で陸軍の次なる目標として選ばれたのはアリューシャン列島、フィジー・サモア、東部ニューギニア、インド東部、セイロン島等だった。しかし、いずれも日本本土からかなり離れた場所で、満足に補給出来る自信は無かった。
そして、海軍はオーストラリア攻略を主張した。陸軍はまた海軍に驚かされることとなった。陸軍が難しいと思った場所より更に遠い所を攻撃しようと言うのである。仮に攻略出来たとしても、補給が続かなければ自滅するだけである。それに、米軍の反抗までに十分な陣地を構築出来ない可能性もある。また、そもそもこのような攻勢には更に多くの師団、具体的には10個師団以上が必要だと考えられた。しかし、陸軍はそのような師団を用意できる状況でなかった。既に満洲や朝鮮にあった師団を転用して、やっと南方第一段階作戦を成功させたのである。
これらの理由を示した上で海軍を何とか説得した。しかし、海軍は十分に納得していない様であった。
調整を重ね、ようやく陸海軍の間で意見が纏まった。目標はニューカレドニア、フィジー・サモアの要地、ポートモレスビーとアリューシャン列島であった。これでも多過ぎる。
俺は参謀本部に対して、これらの要地攻撃は消極的で良いと指摘した。特にポートモレスビーは新たな泥沼の戦いの入口である。
史実でのニューギニアの戦いは、インパール作戦と同じくらい飢餓に苦しむ最悪の戦場となった。派遣された兵力が14万人に対して、生存者は僅か1万人であった。生存率は7%とも言われた。結局、ポートモレスビーの攻略には失敗し、ソロモンの戦い並みに航空機消耗戦となった。ニューギニアの場合、地上撃破や部品消耗による機体の損失があった。輸送船舶の損失も多大であった。もう絶対国防圏まで撤退しても良いくらいである。
結局、陸軍本部は俺の意見を受け入れた。特にポートモレスビーに関しては航空攻撃を主体として、あくまで攻勢をしているように海軍を欺くことにした。
フィジー・サモアもミッドウェー海戦の敗北を受けて中止されるだろうということを話した。元々乗り気でなかった陸軍はこの話を受け入れた。攻略用の部隊は別の戦域に行けるよう待機することが命じられた。
他の要地、アリューシャン列島等は史実通りの動きとなった。
ここで1つ、重大なことに気づいた。陸軍本部に一々史実の様子を伝える面倒だということに気づいた。ならばいっそのこと、俺の知っていることを、参謀本部と共有した方が良いのでは?
善は急げと参謀本部内で研究会を行うことにした。
何をどこまで話せば良いのか分からない。しかし、これがこれからの戦争に少なからず影響を与えるだろうということは容易に想像することが出来た。
今作の主敵は連合国軍と帝国海軍だな()
次回は未定です。
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ではまた次回にて、さよなら。