ラスボス系お姉さん
強気なお姉さんが好きです。
「よくぞここまで来たな、勇者よ!」
「誰が勇者ですか。あ、今日はお誘いいただきましてありがとうございます。これ、ほんの手土産です」
「うむ、褒めてつかわす!」
先日、隣のお姉さんにちょいと頼まれごとをされた。
なんだろなぁ、と浮き足だって行ったが最後、訳の分からない健康器具や大量の服をリサイクルショップに持って行かされる仕事を仰せつかってしまったのだ。しかも半分くらい片付け残ってて、それすら手伝わされる始末。
今回は、そのお礼に夜ご飯をご馳走になるという訳なのだ。
「だいぶスッキリしましたね」
「ああ」
リサイクルショップの軽トラで二往復だもんなぁ。
「少し待っていてくれ、すぐに出来る」
見違えるように広くなったアパートの一室。初め来たときは、俺と同じ間取りとは思えないほどに物で溢れかえっていた。
「あ、唐揚げですね」
キッチンでは油が良い感じに温まっており、鶏肉が投入される寸前であった。
「母親から唯一教わった料理だ。味は保証付きだぞ?」
「いいですねぇ」
新しく買ったと思われる座布団に腰をかけると、テーブルにコンと缶ビールが置かれた。
「勇者よ、いける口であろう?」
「あ、頂きます」
ビールの銘柄がドンピシャで俺好みだった事もあり、俺は喜んでプルタブを開けた。
大きく一口、次いで小さく。三口目をあおった頃、唐揚げを揚げる良い音が聞こえ始めた。
「さあ! 出来たてを喰らうがいい!」
暫くして、ほかほかの熱々。見るからに旨そうな唐揚げがドンと目の前に置かれた。
「頂きます」
出来たてを頬張る贅沢感。ヤバい、超うまい。
「如何かね?」
「率直に美味いです」
衣がサクサクでヤバい。なんだこれってくらいヤバい。そして何よりビールとの相性がヤバい。
「衣が美味いだろ? 母の唐揚げは絶品と評判だったからな。あまりの中毒性に、私は幼き頃から【闇の衣】と呼んでいるぞ?」
全てを揚げ終えたお姉さんが、俺の前に座った。両手に缶チューハイを握り、一本を俺に手渡した。
「唐揚げによく合うぞ」
「頂きます」
チューハイと唐揚げ。お姉さんの言う通りこれ以上は無いくらいに最高の味わいだ!
「幸せッス」
「ハハハ、ピッツァもあるぞ」
チンと鳴り、お姉さんがミトンをはめてアルミホイルに乗ったピザを運んできた。スーパーなんかで見かける箱売りの小さいピザだ。
「勇者よ、ワシのしもべになれば世界の半分をやろうぞ?」
お姉さんが包丁で丸いピザを半分にカット。そして包丁を横に置いた。
「ふむ、悪くない」
半分にしただけで、後はそのまま手でたたんで頬張ってしまうお姉さん。なんと贅沢な食べ方だろうか。
「ほれほれ、世界の半分はお前の物だ。遠慮せずに食せ」
「贅沢感がパないですね」
俺もピザの贅沢食いを試す。思い切り齧り付くピザはなんとも言えない気分に俺をさせてくれた。
──だいぶ飲み食いして、お姉さんが先に寝落ちした。
「お姉さん、お姉さん! 俺帰りますよ!?」
「ぬぅ……我の眠りを妨げる者は誰だ……」
俺を抱きしめるように、お姉さんの腕が絡みついてきた。
唐揚げの油の匂い、酒の匂い、そしてお姉さんのいい匂いが俺の脳細胞を死滅させてゆく。
「我の腕の中で息絶えるがよい……」
俺はお姉さんの腕の中で死んだ──いろんな意味で。魔王には勝てなかったよ。
強気なお姉さんがメッチャ落ち込んでるときに付け込むシチュが好きです。