残された2人
「大丈夫ですか?」
「む…ふ、こんな時でも君は敬語なんだね」
「今、そちらに行きます。うっ、ぐあぁああ!」
叫んだかと思うとズリズリと這う音がする。
「な、なんだ?や、やめるんだ。む、カハッ」
「叫んではダメです。肺に血が行きます」
「君だって足がないんだろう?止血を…」
「もう済ませました」
青年の切断された足の断面は火で止血したので焼けただれていた。貴族は脂肪を蓄えていたおかげで急所を外れていたので、青年の回復魔法で立ち上がるまでに快復した。
「む、むふ~!父上め許さん!どれだけ僕が頑張ったことか!もう家には戻らない。あの甘ちゃん弟が家を継いでどうなろうと知らない。さ、肩を貸すよ」
「ありがとうございます」
しかし、肩を貸すにも青年の筋肉は重く。更に足もないので不安定で貴族の彼は支えることもできなかった。
「ごめんなさい」
「むふ~、こちらもすまない。くそ、僕のスキルが治療系ならあそこに転がっている君の足を付けれたのに!…あれ?その足は?」
キョロキョロと辺りを見回すと犬型のモンスターが齧っていた。血の匂いを敏感に察知したようだ。
「む、むふ~、モンスターが出たぁ!」
「…1つだけ策があります。上手くいくか分かりませんが」
「な、なんだ?!教えてくれ」
「それにはあなた様の剣と協力が必要です。出来ますか?」
「むふ!やるに決まってる」
青年が出した策。それは想像を絶するものだった。彼は携帯していた料理酒を一気飲みし猿轡をした。横には貴族が剣を構えていた。
「ふ、ふ、ふ、フゴ!」
「むふ!女神様、この者に幸あれ!」
切られた足をさらに切ったのだ。そしてその断面に青年が使用していた剣と貴族の剣を柄の方から刺した。
「ゴガァアアガアアア!」
「ひぃぃいいい!」
「ハッハッハッ、ハァ。ぷはぁ、《回復魔法》」
すると足の断面は剣の柄を包むように肉が盛り上がり塞がった。そして青年の身体は浮いた。
「むふ…これが君のスキル【浮物】…」
「2つ同時に浮かせたことはなかったけど上手くいった。さて酷なことをさせてすいません。これで移動できます」
青年のスキルは自身は浮かすことはできない。服を浮かす事もできたがそれだと一点で持ち上げるためバランスがとりずらい。以前、靴にスキルをかけたところ移動のスピードが上がったことあった。それを思い出して実行したのだ。
「むふ、武器を義足にしたけど大丈夫なのか?」
「安心してください」
その言葉通りになった。脚力は腕力の3倍と言われる。青年は手に剣を装備した時は飛ぶ斬撃を出せなかったが、足に装着した剣で蹴り技を出すと斬撃が出た。来た時よりゆっくりとしたペースだったが無事に出口まで来た。
「む、むむむふぅぅ!出れた、出れた!」
「よかった…」
「君…いや兄貴のお陰で助かりました!」
「あ、兄貴?」
「むふ!もう家には戻らないし僕は兄がずっと欲しかったんです!付いて行かせてください兄貴!」
「いいですよ、共に行きましょう」
「敬語もやめてください、兄貴!」
「わかった、これからよろしくな」
「はい!」