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彼女は異世界を目指す  作者: 空河赤
第1部「異世界転生サークル」
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昼食

「君が郡に気に入られている理由がわかった気がするよ」

「気に入られてるなんて言いましたっけ?」

「サークルのメンバーでもない人間を活動に巻き込んでいる時点で、気に入られてるのは明確だ」


 先生は二本目のキャンディーを噛み砕き、棒をゴミ箱に投げ捨てた。


「黒瀬くん、今から少し時間はあるか?」

「……はい。今日は特にこれから予定もないので」

「わざわざ足を運んでもらったんだ。昼食でも奢るよ」


 先生はかけてあった生地が薄そうなサマーコートに着替えた。


「ここから少し歩くがいいかね?」

「はい。奢ってもらう分際で文句は言いませんとも」


 先生はまた高らかに笑った。勢いのいいその笑い声は、聞いているだけで明るい気分になる。というか、昼食は自分で用意するつもりだったら助かった。浮いたお金でラノベでも買おう。



 学校から十五分くらい歩くと、昨日行ったとんかつ屋と同じくらい年季の入った店に到着した。


「先生、ひとつ聞いてもいいですか?」

「お? どうしたんだ?」

「年齢っていくつなんですか?」

「……女性に年齢を尋ねるものじゃないと習わなかったか?」

「はい、けど見るからに若い人に尋ねるのは失礼じゃない気がします」

「ふふ、君は口がうまいな」


 そもそも、年齢を聞くのがなぜ失礼になるかわからない。お酒を買うときには年齢確認をされるし、その気になって調べれば相手の年齢なんてすぐにわかると思う。ババアですねとか、老けてますねとか言ってるわけじゃないんだから、年齢聞くぐらい別にいい気がする。


「まぁ一応言ってみただけで、私も年齢を答えることに対して抵抗はないんだがな。今年で二十七歳になる。働き出してから四年目だ」

「本当に若いんですね」

「……少年。それは逆に失礼だぞ。まさか私が若作りをした結果、この美貌を手に入れているとでも言いたいのか?」


 そこまでは思ってないですけどね。ってか自分で美貌って言っちゃったよ。


「先生ぐらいの年齢の人なら、もっとおしゃれな雰囲気のお店に行くもんじゃないですか? 昨日の店といい、あまりにも味がある気がしますけど」

「おしゃれさで腹が満たされるならそれも考えるがな。とりあえず入るぞ」


 建て付けの悪いドアに苦戦しながら、僕たちは店内へと入った。



「やあ大将」

「……今日は土曜日だぞ。仕事は休みじゃねぇのか」

「生憎とやらなくちゃいけないことがあるんだよ。社会人ってのは想定外の仕事に追われているものさ」


 何度も来ているのか、入ってそうそう店主らしき人と雑談を交わしている。店主がずっと険しい顔をしているのはなぜだろう。あまり歓迎されていない空気だ。


「好きなものを自由にお盆に乗せていくシステムだ。遠慮せずに食べろよ」


 先生はそういってお盆を渡してくれた。店内をぐるっと囲むようにして、いろんなおかずが置かれている。陳列棚には値段が書かれている。食べた分だけお金がかかるタイプのバイキングといった感じか。

 先生は慣れた手つきでお盆におかずを並べている。あまりがっつきすぎてもなんだから、程よく選んでおこう。


 僕はサラダと豚キムチ、卵焼きをおかずとしてチョイスした。これにご飯があれば、夕食まで空腹になることはあるまい。


「なんだなんだ。やけに健康そうなメニューだな。学生なんだから、もっと揚げ物みたいな体に悪そうなもの食べろよ」

「……学生のうちから健康を意識するのは大切ですよ。ってかなんですかそれ?」


 先生のお盆には唐揚げとイカの天ぷらと野菜のかき揚げ、そして山盛りのご飯がおいてある。ものすごく山盛りである。お茶碗が逆さ富士に見えるくらい山盛り。


「ここはご飯のおかわり自由なんだがな、こいつはいつもこれくらい食べるんだよ。毎回毎回盛ってやるのは面倒だから、最初から多めに入れてるんだ」

「いや、多めって次元じゃない気がしますけど……」

「細かいことを気にするな。さっさと食べよう」



 食事中、僕たちは一言も会話をすることはなかった。いや、会話する隙がなかったといった方が正しい。先生はフードファイターの如く、山盛りのご飯に食らいつき、信じがたいスピードで食べ進めていった。僕と食べ終わったタイミングは同じくらいだったけど、あの量の差で食べ終わるのが同じなのはそもそもおかしい。

 その細い体のどこにあの量のご飯が入ってるんだろう。人体の不思議だ。


「はぁー食べた食べた。ここはいいぞ。どれだけ米を食べてもタダだからな」

「お前みたいなバカみたいに食う客がいなけりゃ、うちの利益も増えるんだがな」

「おいおい、贔屓にしている客に対してその言い草はないだろう。私がこの店にいくら金を使ったか知ってるのか?」


 店主があまり歓迎してなさそうだったのはこれが理由か。本気で嫌がってる感じもしないけど。


「どうだ。腹はいっぱいになったか?」

「はい。見てるだけで胸焼けしそうでした」

「はっはっは。だが、私がこういった店を好んで選ぶ理由がわかっただろう?」


 確かに、二十代女性が好きそうな店はご飯のおかわりが自由じゃないだろう。量も控えめだろうし、先生を満足させるには不向きかもしれない。


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