1話 舞い込んだ依頼
「なあなあ、悠。今日帰ったらFPSやろうぜ」
「無理。今日はバイト入ってるから」
「ちぇっ、つれねえなぁ」
僕──────こと、佐藤悠は、しがない高校二年生。特筆すべきことはなにもない。しいて言うなら─────家事が得意かな。家事自体小さい頃からやっていたし、自然に身に付いたって感じ。
「明日は暇だから、明日ならできるよ」
「オッケー、じゃあ明日。必ずだぞ? 絶対だからな? 寝てましたーとかやめてくれよ?」
「僕が約束をすっぽかすわけないじゃないか」
「……………いや、現にお前、前科あるからな?」
「あはは……………そうだっけ?」
「すっとぼけんじゃねえ」
今僕とこうして話しているのは──────親友で幼馴染みの三好陽翔。サッカー部に所属していて、目鼻立ちがくっきりとした感じのイケメンではなく、ちょっと爽やかなイケメンみたいな感じ。まあ、腐れ縁だ。
「……………ところでさ、悠。知ってるか? 『氷姫』、また告られたらしいぞ」
「知ってる。しかもこっぴどく振ったんでしょ?」
「ああ。振られた男子も泣きながら帰って来たらしい」
『氷姫』──────藤森安奈。彼女は、そう呼ばれている。黒色のロングヘアーにキリッとした顔立ちで、僕からすれば高嶺の花。何故『氷姫』なんて呼ばれているのかというと──────普段から滅多に笑わないのと、告白した男子を振る際の冷たい態度が原因だろう。
「あー、俺も早く彼女欲しいな~」
「はるって案外彼女できそうなのに……………彼女いないよね」
僕はそれが不思議でならない。はる程の男だったら、彼女がいてもおかしくないように思う。こう見えても……………はおっと、失礼か。まあ、ある程度の気遣いはできるし、中々の好物件なのでは? と僕は思っている。なんでだろう? …………………まさか。
僕はふと気づいてしまった。
「………………没個性?」
「うぬぬ……………その可能性を否定できない自分が恨めしい」
唸るはる。
「……………まあ、個性は人それぞれだしね?」
「だから没個性が個性ってか? お前、それ、慰めるどころか傷口抉りにかかってるようなもんだぞ」
苦笑するはる。全く慰めたつもりもないんだけどね。まあ、彼女ができるように頑張って欲しい。僕は隅で旗振ってるから。
◇◆◇◆◇
学校が終わって、バイト先。僕は自分の特技を生かして、家事代行サービスというのをやっている。自分の性に合ってるし、それでお金ももらえるんだから、いいことづくめだ。
「おっ、悠。今日もご苦労様」
仕事場に入ってきた僕に声をかけてくれる女性。
「ご苦労様って、僕、これからなんですけどね」
「まあまあ、素直に労いの言葉は受け取るものよ?」
バイト先の上司──────宮内冬野さんだ。僕をここに誘ってくれたのも冬野さんで、僕をこの仕事に引き合わせてくれた。
「……………それより、今日ってなんか依頼入ってたりします?」
「それよりってひどーい。う~ん……………今日は特に入ってないかな」
「そうですか………………」
まあ、こういう時もたまにある。座って本でも読むことにしよう。気になるところで止まってるんだよね。
妙にウキウキしながら持ってきた鞄から本を取り出そうと───────
「あ、電話だ」
電話が鳴った。静かな空間にはっきりと響く。冬野さんが受話器を手に取る。
「はい、こちら孔明家事代行サービスです」
この孔明家事代行サービスの孔明は、あの諸葛亮孔明から取ったらしい。謎だ。孔明と家事になんの関連性が────………………
などと馬鹿げたことを考えていた僕。やがて、電話を終えたのか、冬野さんが僕の方へとやってくる。
「悠。今さっき依頼が入ったから、悠にそこに行ってもらいたいの。場所はここだから、宜しく」
冬野さんから渡された紙には、そこまでの行き方の地図と、『藤森さん』という名前が書かれていた。
「分かりました」
僕は特段気にかけることもなく、頷くと準備をして目的の場所へと向かう。僕は気づくべきだったんだと思う。『藤森』という名前で気づくべきだったんだ。