表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

蒼花

作者: 水無亘里

 幻蒼の月が、僕を見下ろしていた。

 青白い肌に、うっすらとした紅が微かな笑みを形作る。


 僕は言葉を失っていた。

 あまりの美しさに、返すべき言葉をなくしてしまったのだ。

 ほっそりとした指が僕のほうへ伸びている。

 僕の頬には冷ややかな感触がわずかにあるだけだ。


 あまりにも近いので、肉眼では捉えられない。

 しかしその冷たさが、少女の指などではないことを告げている。


 僕はそれが小刀の切っ先であることを理解できないまま、ただ、言葉だけを聞いていた。

 美しい少女の、鈴の音のような声色に、耳を澄ませていた。


「ハロー、人間。死にたくなければ、たぁんとお泣き」


――


 善悪の彼岸という言葉がある。

 中二病を罹患したことのある人間なら、きっと聞き及んだことがあるだろう。

 知らない人のために説明すると、善悪の基準なんて何処にも見当たらないぞ、という話なわけだ。


 なのでつまり、善の象徴として語られるものにも、悪に通じる要素はあるし、逆だって有り得るわけだ。

 それはあの有名な伝承、座敷童子にしたって同様で、俺が出逢った少女についても同様だった。


 黒い小袖に小刀を隠した美しい少女、蒼花は悪性の座敷童子だった。


「幸せになりたいから座敷童子に会いたーい! ……とか言ってる平和ボケしたやつらの頭を蹴り飛ばすのがあたしの趣味なの」


 ……とは、蒼花の言。純真な子供たちには絶対に聞かせたくない発言である。

 僕は辟易しながら頭を掻いていると、彼女は続けた。


「誰かに幸せにしてもらいたい、なんて願望はさ。叶ったところで長続きしないものよ。幸せで居続けることは、努力なしじゃできない。けど、そんな一瞬の幸せをあたしは、『幸せ』とは呼びたくないわけよ。……分かるかしら、愚かで矮小な人間諸君?」


 人間諸君と呼ばれたところで、人間を代表するような身分ではないし、どう返したら良いか分からなかったけど、彼女は僕の返答など期待してはいないらしかった。


 それにしても、僕は少し意外に感じていた。

 何処となく不遜だし、何処となく気怠そうな彼女に、そんな大層な考えがあること自体が、何処となく不思議に感じていた。

短編の新人賞に出そうと思って書き終わらなかったボツ原稿です。○の境界的な作品になる予定でした。全然話が書けなかったので、もう少し煮詰めて再スタートします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ