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村と都市  作者: 栄啓あい
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おさんぽ

 外は相変わらず蝉の音がうるさく、いろんな鳴き声が調和してハーモニーが作られているような気がした。


 青空が広がっていて、緑に囲まれた田の中にぽつぽつと古そうな家があり、とても気持ちがよかった。


 都会では、何でもぎゅうぎゅうしているから、これを見ると、なんか何でも馬鹿らしくなってきた。


 「きっちゃん、こっちー!!」

 「はーい」

 

 この子、こういう無邪気なとこ、可愛くて好きだわー。


 「とりあえず、適当に歩いているのもなんだし、駄菓子屋でも行こ!」

 「駄菓子屋!僕、駄菓子屋ってすごく小さなときに行ったかもしれないくらいしか記憶がなくて…だから、実質行ったことがなくて、ずっと行ってみたかったの!!嬉しいなあ」

 「え?きっちゃんの町って、駄菓子屋ないの?」

 「ないよー。というか、都会からはもう消滅したと思う」

 「そうなんだ~。残念」

 「でも、お菓子のまちおかっていうお菓子専門店ならある」

 「でも、駄菓子屋とは違うの?」

 「う~ん、ちょっと違うかな」

 「じゃあ、レッツゴー!」


 美穂は、片手を握って、元気よく歩いていた。


 「きっちゃんは部活とか入ってるの?」

 「僕は、一応テニス部だよ」

 「へえー。じゃあ、練習とか大変でしょ?」

 「まあ、確かに大変ですごくきつい。毎日練習あるし」

 「そうなんだ~。私も毎日あるよ~」

 「何部?」

 「吹奏楽部だよー」

 「へえー。すごいね。吹部って相当頑張らないとでしょ?大丈夫?」

 「うんうん。だって、楽しいもん。仲間と一緒に練習したりしゃべったりして。たまに終電ぎりぎりってこともあるけど」

 「そんなに遅くまで!?」

 「いやいや、元々終電早いし、ちょっと遠いしね」

 「まあ、確かにね」


 と、二人で適当にしゃべっていた。


 そこからさらに十分くらい経った。


 田や山に囲まれている道をぐんぐん進み、トンネルをくぐり、丘を越えて、森を抜けて、やがて、ぽつんと看板が一つ見えた。


 『だがし おかのや』


 と質素に書かれた看板の家は、少し薄汚れていて、老舗の古い店って感じもした。


 「まこ姉、やっほー」

 「おお、美穂じゃん」


 中には、若い女の人がいた。


 「ひっさしぶり!!」

 「相変わらず元気だな。ところで、後ろの、お前が連れてきた男は誰だ?」

 「ああ、この子は、都市から来て、たまたまこの村で会ったの」

 「こんにちは」

 「いらっしゃい。何もないけどゆっくりしてってー。しかし不思議なもんだな。お前が村の外のやつを連れてくるなんて。いっつもさやちゃんとかみっちゃんとかと来たり、一人で来たりしてるから。あ、最近は一人だったか」

 「そんなことないわ!」

 

 と、微笑ましい会話を見て、店内をもう一度見まわすと、自分の想像していた駄菓子屋とぴったりはまって、感動した。


 まず、小さなお菓子がいっぱいある。


 トッポとかポテロングとかが逆に無く、アメやらガムやらグミやら十円チョコやらラムネやらがあり、よく見ると、消しゴムやペンなどの文房具もあった。


 嬉しくて、都市では見たことのないグミやチョコなどを買った。


 「きっちゃん、いっぱい買ったね…」

 「いやあ、嬉しくて、さ」

 「アイス、食べよ」

 

 美穂は駄菓子屋のベンチに座り、一緒に食べよう、とウキウキしていた。


 そのベンチは、駄菓子屋兼バス停だった。


 バスは三時間に一本で、バス停名は「駄菓子屋」だった。


 「村にはバス停が二つあって、入口と、ここだけなの。次のバス停は村から出ちゃうから、貴重なのよ」

 「なるほど」


 二人並んで仲良くアイスを食べているのは、とても楽しかった。


 今、僕はしあわせなんだな。


 僕は、何かが満たされていくような気がした。



 それから二人は川に行った。


 その川はとてもきれいで、透明度が高く、いかにも清流って感じだった。


 「この水、飲めるんだよ」

 「えっほんと?」

 

 そう言うと、美穂は水をすくい上げ、それを飲んだ。


 「うん。おいしいよ。きっちゃんも飲んでみたら?」

 「じゃあ…」


 と言って、思い切って飲んだ。

 

 「うまい!こんなにおいしいんだ!」


 そのうまさは、自然の中から湧き出た、本当にナチュラルな、天然水という感じだった。


 何も手が加わっていなくて、とにかく、水そのものを入れた感覚で、幸せな気持ちになれた。


 そのまま二人で瓦の砂利に座って、買った駄菓子を広げて、グミとか食べた。


 こんなふらっと来ただけなのに、こんないい日を過ごせるなんて、美穂に会って本当に良かった。


 ど田舎の河原でボーっとするだけというぜいたくな時間を過ごせて、僕は満足を超した感動を広げている。


 とにかく、広い。


 そして、


 寂しくない。


 なんて素晴らしいのだろう。


 ちょっと砂利に寝転がってみた。


 遠い空はもう、少し赤みがかかっていて、薄暗いような気もした。


 雲一つない青く澄んだ空に包まれていると、地球を感じた。


 隣では、美穂も同じようなことをしている。


 「喜良、ありがとう」

 「僕もこんな壮大な景色を身体全体で感じることができて嬉しいよ」


 僕も、その後何か言っていたようだが、自分でも出てきた言葉を理解することができていなかった。


 そのまま、すとんと眠りに落ちていた。

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