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9話 光明の灯り/暴獣の呻り

【11話】



 己のルーツへ近づくため、歪なる暴獣の討伐に向かうアイネス一行。

 道中魔物に出遭うも、軽々と蹴散らして悠然と一行は進んでいった。


 そうして、黒の洞へとたどり着いた。


「ここが黒の洞だな」


 アイネスは目を閉じ、直感を鋭く極める。


「……駄目だ、何も感じない」

「神の力をもってしてもか?」


 煽るマイ。アイネスは諦観し。


「神の力も、万能じゃないみたいだな。どうやらこれは戦うためだけの力らしい」


 アイネスは光を手に纏わせる。手を振り抜くと、光の帯が刃となり、辺りの木々を安く伐採する。


「このザマだな」


 アイネスはやれやれと首を振り、迷いなく黒の洞へと進んでいく。

 リリアはそれに追い縋り。


「戦うためにしか生きられない俺悲愴でかっこいいーとか思ってる?」

「……思って、ない」

「ほんと?」

「思ってないぞ!」





 黒の洞。名を体を現す、というように、その洞穴は非常に暗いものであった。

 アイネスの光、そしてリリアとフォビアの魔法の炎で道を照らしながら進む。


「なんか静かだね……」

「生命の息吹がしない……どんな生き物も住んでいないのか」

「いずれにせよ、警戒は怠るなよ」


 斥候はアイネス、その両脇にリリアとフォビアがはべり、後尾をマイが務めて進む。


 おどろおどろしい雰囲気ではあったが、魔物は一切現れない。


「魔物もいないとは」

「いったいどれだけとんでもない所なんだろう」

「クク、だが油断はするなよ。一寸(ちょっと)前から何やら油の匂いがする」


 マイはそう言う。だが、アイネス達には察知できない。


「ほんとう? わたしたちを怖がらせようとしてるなんじゃないの?」

「クク、どうだろうな」

「食えない女だ、全く」


 一行はさらに奥深くへと進んでいく。


「ふむ。近い」


 マイが言う。


「さっき言ってた奴か?」

「ああ。丁度、ホレ、そこを曲がったらすぐの所からだ」

「……」


 一行は気を引き締める。


「スリーカウントで行くぞ」

「カウントダウン? それともアップ?」

「ダウンだ。フォビア、コールを頼む」

「あいあいさ!」


 総員戦闘態勢に移ったのを見て、フォビアはカウントダウンを始める。


「さーん、にーい、いーち!」

「よし行くぞッ!」


 バッと飛び出る4人。


「うわーっ!? なになになに!?」


 そこにいたのは。


「……人?」


 慌てふためく女。薄着で、右手にランプを持ち、背にはパンパンのバックパック。


「ななななんですかあなた達!?」


 どこからどうみても採掘者。脅威対象外そのもの。


「あー、悪いな、突然驚かせて。俺達はこの洞窟にクエストでやって来ただけだ」

「ほんと!? ほんとなのね!?」

「ほんとほんと! 怪しいものじゃ、ないから!」

「じゃあまずは名乗れー!」


 女のいう事ももっともだ。アイネスは可能な限り敵意を消し、名乗る。


「俺はアイネス。己の力のルーツを探して冒険をしている」

「私はリリア! Aランク冒険者で、天才女魔法剣士って呼ばれてるよっ!!」

「自己主張激しいな……」


「わたしはフォビア・マリスイーター! 真なる淑女を目指して、冒険をつづけてるの!」

「私はドク。フォビアお嬢様の身をお守りする存在で御座います」


「マイだ。ン──他に言う事はないだろう」


「……どいつもこいつもキャラ濃いなあ!? ま、そっちが名乗ったなら今度は私の番だね!」


 女は立ち上がり、頬のススを払った。


「私は《アスナロ》! 採掘をしてて、珍しい鉱物が取れるらしいからここに来たんだ!」


 びしっと指を刺すアスナロ。なるほど、そのバックパックには大量の鉱石が見て取れる。


 と、アイネスは一つ疑念を抱く。


「普通に入れたのか?」

「ふっつーうに入れたよ?」

「立ち入り禁止とかはしてないのか……」


 案外ずさんな管理なんだな。とアイネスは思った。


「アイネスたちは? 何しにこんなところに?」

「なにやら《暴獣》っていうおっかない存在がここにいるらしくてな」

「それを討伐するクエストを任されてるんだ! 私たち優秀だから!」

「暴獣……聞いたことないなあ」

「クク、貴様のような田舎臭い女では当然だろう」

「ちょ、なにその言い方ー!? あなたは知ってるの!?」

「どうだか」


 マイの鼻持ちならぬ態度にアスナロは歯噛みする。


「むーむかつくー! なら! 私もあなた達に着いて行くよ! その暴獣? ってやつ、この目で拝んでやる!」

「え、ええっ!?」

「クク、好きにさせればいいだろう。さァ、行くぞ。暴獣はもう近いだろう」


 マイはアスナロのランプを奪い取り、勝手に先行する。


「あっ、マイ!」

「まてこにゃろー!」


 アイネスとアスナロが追う。


「……なんていうか、なーんか信用ならないよね……」

「どうかん~あやしい~」

「……アイネスを奪う気なんじゃないでしょうね……!?」


 あれこれ言い合うリリアとフォビア。

 ドクが口を挟む。


「追いかけられては如何でしょう」

「ああっ!」

「そうだった!」


 急ぎ足で二人も向かった。





 それからしばらく進んで。


 一行は、《それ》へと至った。


「な──」

「なに──あれ」


 目を疑っていた。


 暗い洞窟、その中空に、深淵で真円な穴が、空間にヒビを入れながら、ぽっかりと口を開いていた。


「マイ──あれ、なに?」

「暴獣が《此方》へと至った痕、だな」

「じゃあ……暴獣は、異世界の存在──ってこと?」

「クク、どうだか。あながち間違いでもないかもな」


 変わらずの態度を取るマイ。一方で、アイネスは警戒を強めていた。


「暴獣の通り道だとしたら──この周辺に、暴獣がいるんだろう」

「──だよね。もう敵地ってことだ、油断はできない」

「お嬢様、お気を付け下さい」

「わかってるよ」


 陣形を取り、穴を中心に警戒を続ける。



 ────その時だった。


 カサカサッと音がする。


「!」


 一同音のした方向を向く。


「──あれが」


 アイネスの神の目は捉えていた。暗がりに潜む、《暴獣》を。


「MMmtttTtrRrRleLLLeeeeeeeeee…………」


 おおよそこの世の物とは考えられないような、奇ッ怪な呻き声を上げる存在。


「……みんな、用心しろ」


 各々武器を構え、その暴獣へと向ける。


「──」


 息を飲み、時を待つ。


「Mttrrrrrrrrrr……Rrrrrrrrr……」


 段々と暗闇に目が慣れ、その全貌が明らかになる。


 本体は黒い球体。人間の頭ほどのサイズの。

 そして、大量の長大な肢が不規則かつ無尽蔵に並ぶ。

 肢は一つ一つ長さが異なり、節の数もそれぞれ異なる。


 総じて──《異形》という言葉を具現化したにふさわしい存在だった。


「──」


 そして、アイネスは、感じ取っていた。


 ──己の内から迸るものと、同じ力を。


(アレは……アレは一体何なんだ)


 アイネスは神の力を得てから初めて《恐怖》を味わっていた。



 だが、そうしている内にも、時は経つ。

 そして、時の流れに応じて、穴はその口を閉ざしていき、最後には消えた。


「M……」


 暴獣が僅かな動きを見せる。

 それはまるで、引き金を引かれた悲劇のように。



「MMMMMMMMMMMMTLLLLLEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」


 悍ましい叫び声が洞窟中に轟いた。


「────!」


 一行は本能的な惧れを感じた。


「う、わああああああっ!」


 耐え切れず、リリアが走る。アイネスもそれに続き、光の剣を構えて走る。


 なによりも、一刻も早くこの暴獣を殺し、安穏を手に入れたかったのだ。

 この場にいた者ならば、誰であってもそう思ったことだろう。


 だが、当然、歪なる存在に、そんな雑な考えは通らない。無謀な剣は通らない。


「うっ!」

「躱された──」


 大量の肢を蠢かせ、洞窟の天井から壁を這い、目にも止まらぬ速さで滑る様に暴獣は移動した。

 一行の裏を取るように移動した。


 そして、幾つかの肢を伸ばしていた。


「!!」


 冒険者として、経験を培ってきたアイネスやリリア、フォビアにマイは囚われる前に回避が出来た。


 だが一人、冒険者ではない者がここには居た。



 ──そう。アスナロである。


「え?」


 彼女が、この一瞬で何が起こったのか理解しないまま、その首には一本の肢が掛けられていた。それはまるで、絞首刑を執行する時のように。


「あ」


 アイネス達が何かしようとしたが、遅い。

 暴獣はくいと肢を引く。たったそれだけで、アスナロの首は直角に曲がり、ごきりという低い音が響いた。


「え」


「────」


 一行は目を見張った。

 アスナロの首がだらりと下がり、身体は膝から崩れ落ちる。


「?のぬ死」


 それが彼女の最後の言葉だった。

 彼女は、己の死を噛み締める暇も与えられず、歪なる暴獣の餌食となったのだ。



「MMMMrrrrrTttttTRLLLLEEEEE」



 暴獣は、嗤うように、呻った。



【続く】

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