3話 彼女の眼/琥珀の心
【3話】
────────『天才』と呼ばれて育っていた。
そして、それは事実だったのだろう。
私──リリア・メレクトラムは、アイン村に生まれた。
幼い頃から周囲に『天才』だの『神童』だのちやほやされて、自尊心の塊のように育ってきた。
何をしても褒められ、称えられ、称賛された。
だけど、それにも飽きた。
だから私は、悪戯をよくするようになった。
色んな悪戯をした。たくさん大人を困らせた。
いつしか悪ガキとして知られるようになった。
────そんな頃だっただろうか。《神の子》アイネスと出会ったのは。
勿論、その頃のアイネスにそんな二つ名はない。
当時のアイネスは、運動も勉強も平均よりも劣る才の持ち主で、ただ正義感だけは誰よりも強い少年だった。
アイネスは私の事を付け狙い、悪戯を叱るようになった。
私はその様が面白くてたまらなかった。
悪戯を止めさせたいアイネスの思惑に反して、私は止まることなかった。
そうして、私とアイネスは自然と親しくなっていった。
楽しい時間はいつまでも続くと思っていた。
でも、そうはならなかった。
時は経ち、いつしか私たちも成人し、冒険者として旅に出ることになった。
成人の儀式を終えた私とアイネスは、旅に出た。それぞれ逆の方角へと。
それから、アイネスとは一度も顔を合わせていなかった。
冒険者としての私もまた《天才》だった。
剣術・魔術ともに直ぐにマスターし、その二つを高次な戦略に基づいて組み合わせる《魔法剣士》という称号を得た。旅に出て1年足らずの事だ。
多くの人間から持てはやされた。不思議と良い心地はしなかった。
そして、私はその力を余すことなく存分に振るった。どんどん難度が上がってゆくクエストたちを苦も無く突破し続けた。
やがて、私の冒険者ランクはAランクにまで辿り着いていた。冒険に出てから2年経ったかどうかくらいの頃だったか。
それからは、更に持てはやされた。《天才女魔法剣士》という二つ名まで付いたくらいだ。
私はさして地位に興味があったわけではない。だが、《Aランク》という称号は私の中で強いものになっていた。
だが、代償もあった。
私の名が冒険者界隈で広く知られるようになるにつれ、寄ってくる者がどんどん増えていった。
そのほとんどは男だった。明らかに下心を持って近寄ってくる不埒な輩。どれだけ追い返してもその数は減らない。
ある時から、私は寄ってくる男たちに《決闘》を仕掛けるようになった。
『決闘で私に勝ったのなら、煮るなり焼くなり好きにしていい』という条件を付けて、だ。
弱い男は減った。残るのは腕に自信のある男たちだった。だが、下心で動く下賤な男に私が負けるはずなかった。
かくして、私は寄ってくる男どもを蹴散らしながら、天才女魔法剣士として一人で淡々とクエストをこなす、そんな日々を過ごしていた。
虚無な日々だった。
3年が経った。旅に出てから、3年。
冒険者の中では、3年が経ったら一度故郷に戻る、という謎の風習があった。
やることもなかったし、戻ってみることにした。
そこで、3年ぶりに、アイネスに出遭った。
彼は驚くべきことにFランク冒険者であった。初めは耳を疑ったが、その身のこなしを見れば一目瞭然だった。
────正直、落胆した。
アイネスなら、私が心を許せると思っていたからだった。
だが、そのアイネスのランクは最低のF。話にならない。
期待した自分が馬鹿だった、ともすら思った。
結局、私は虚無のようにこれから生きていくのだ、と覚悟した。
その夜だった。
村に凶暴な魔物が現れた。
この近隣には絶対に存在しない生命であり、本来なら私の手にも余る敵だが、気にしている暇はなかった。
私は果敢に立ち向かった。
だが、勝てなかった。
一蹴の内に敗北を味わわされ、嘲笑われながら命尽きる、そういう運命だったのだ。
だが、運命を変える男がいた。
アイネスだ。
アイネスの体は突如として光り輝き、圧倒的なパワーとスピードを持って魔物を殲滅した。
何が起こっているのか、理解が追い付かなかった。
ただ、アイネスが放っていたその光は、私にとっては眩しすぎた。
後、村の長から聞いた話によると、アイネスが目覚めたのは《神の力》であるという。
私は、光を見出した。
アイネスなら、私の心を満たすことが出来る。蜜で密に固められた、琥珀の心を。
だから、私はアイネスの旅に同行したのだ。
決闘もした。その力を改めて確認して、私は安堵した。
だから私はアイネスと共に進む。
──未来に、希望の光を求めて。
【続く】