2話 試される力/目覚める魂
【2話】
己の力のルーツを探す旅に出た青年、アイネス。
彼に同行する天才少女魔法剣士、リリア。
二人は今、アイン村を出てすぐの平原を進んでいた。二人にとっては始まりの地でもあろう。
はしゃぐように先行するリリアと、落ち着いた様子でそれを追うアイネス。
「なあ、もう少し落ち着いたらどうだ?」
アイネスが釘を刺す、も。
「これがはしゃがずにいられると思う? 底知れないやばい力を持った奴と一緒に冒険できるだなんて!」
「振り切れてるな……」
アイネスはやれやれと首を振った。
「……でも、いいのか? 俺はこれから神の力を究明する旅に出る、お前の目的とはズレがあるかもしれないぞ?」
「いいよいいよ! Aランクになってからもう暇で暇でしょうがなかったし!」
「Sランクを目指したりはしないのか?」
「どうせSには届かないし」
「そこ割り切るのか……」
天才の癖に向上心はあるのかないのかわからないやつだ。昔っから。
そのとき、ふと。
「──そうだ」
リリアが立ち止まる。
「ん?」
アイネスもまた立ち止まり、訝し気にしていると。
「……」
リリアは無言のまま、ほとんど無駄な動きを省き、アイネスに斬りかかった。
「なッ!?」
アイネスはその剣筋を確かに見切り、僅かな動きだけで完璧に躱した。
「──うん、確かにその力はすごい」
「な、なにするんだ!?」
アイネスの言葉は完全に無視し、リリアは己の主張を続ける。
「だからこそ。あんたに決闘を挑む」
「な──決闘だと!? なんでだ!?」
「その力、私が直々に確かめるため!」
「めちゃくちゃだ言ってること」
「さあ! 私と戦え!」
「……しょうがない、そこまで言うのなら。神の力のウォームアップさせてもらう」
平原で向かい合い睨み合うアイネスとリリア。
「容赦はしない! 本気で行くよ! 覚悟しな!」
「やれやれ……」
剣呑な空気が辺りに広がってゆく。
「──属性憑依・炎!」
「覇ァ!」
リリアの剣には炎が、アイネスの体には光がそれぞれ宿る。
「たぁーッ!」
先手を打ったのはリリア。飛び掛かり、紅蓮の炎が燃え上がる剣で一閃する。
「──な」
──が、アイネスはそれを小指で受け止める。
「本気なのか? これが?」
その輪郭が光を灯す。
「……んなわけ、ないじゃん!」
リリアは飛び退く。その後に炎が尾を引く。
「しゃあッ!」
炎を纏ったままの剣を振り回す。炎が渦巻いてゆく。
「フレイムトルネード!」
熱風の竜巻に乗った炎がアイネスを取り囲む。
「焼けろ」
「この程度──ハァッ!」
アイネスが気合を入れると、彼を包んでいた炎は一瞬にして吹き消える。
「んなっ!?」
「へへっ。屁でもねえな!」
光の内から剣を取り出しながらアイネスは迫った。
「てやぁッ!」
「せいやっー!」
二人の剣が鍔競り合う。
「ぐぐ……!」
「う……!」
力で上回るのはアイネス。リリアは段々と押され、姿勢が崩れてゆく。
しかし、その顔から笑みは逃げない。
「……属性憑依・氷!」
「んなにっ!?」
ぶつかり合ったままの剣が冷気を放つ。
たちまちの内に、リリアの剣は氷に包まれた。アイネスの光の剣もろともにだ。
「ちい!」
剣から手を離して離脱するアイネス。
「パワー、スピード、それからポテンシャルは確かにあんたの方が上。だけど……」
氷を砕く。破片が日光を反射させ、リリアにスポットを照らす。
「実戦経験は私のが上だっ!」
「ははっ! そんなの、分かってるさ! だがな……」
アイネスは大胆な構えを見せる。
「そんなものをひっくり返すのがこの! 俺の! 神の! 力なんだッ!」
「見せてみろ! その力ぁーっ!」
リリアは剣を引きずりながら迫る。彼女の通った後が凍て付いてゆく。
「必殺!」
柄を強く握り、剣で地を掘るように動かす。
「むっ!」
「氷斬!」
切り上げと同時に、氷山が生まれ、分厚い氷の中にアイネスを閉じ込めた。
「しばらく大人しくしててね!」
そう言って、リリアは大技の準備に入ろうとした。
が、彼女の視界の端に、ひび割れが映った。そして、Aランク冒険者としての反応はそれを見逃すことを許さなかった。
「え……?」
彼女のうなじに冷や汗が垂れた、次の瞬間。
「覇ッッッ!」
アイネスは強引に、数十センチもある氷の壁をブチ破り出た。
「うっそー!?」
「なんだ、名前の割に大したことないな! っていうかなんだその技名は!」
「うるさいな! 《機関》に決められた名前なんです!」
「ふっ! 神の行いには、名前なんかいらねえっ!」
アイネスは両の拳を腰に当て、力を入れる。
「ふんっ!」
体から光が漏れ、筋肉が活性する。
「パワーアップのつもり? 悪いけど、隙だらけよっ!」
リリアはそれを狙って剣を振り下ろす。
だが。
「な──」
アイネスは、その手でがっしりと刃を握りしめていた。
「う──強いっ!」
剣を引くも、とても強い力で押さえられており、離れない。
「貸してもらう!」
「きゃあっ!」
力ずくで剣を振るう。逆にリリアの手から剣がすり抜け、アイネスが剣を構える。
「うう、私の剣を……!」
「どれ、見よう見真似でやってみるか」
「なっ!?」
アイネスはその剣を握り、呟いた。
「属性憑依・炎」
次の瞬間。
光り輝く炎が剣の刃を包み込んだ。
「な──」
リリアは愕然とする。
「そんな……ありえないッ! 神の力は、魔術さえも使えるようになるの……!?」
その時、彼女は気が付いた。
「違う……あれは魔術による憑依じゃない……」
目を大きく見開き、剣に宿る炎を見た。
「あれは……『神の光で属性を再現している』……! そんな、そんなことが……!」
「可能なんだッ!」
アイネスは剣を天に向ける。
光の炎が強さを増し、巨大な剣の形を創る。
「勝利をこの手に……!」
「っやばい!」
リリアは身を引き、魔法を唱えた。
「ランドローブ・マジデ!」
結晶状の防壁が生まれ、彼女の体を包み、守る。
──そして、神の力が襲いかかった。
「覇ぁああああっ!」
「ふんにゅーっ!」
リリアは全魔力を込め耐える。耐える。ただ耐える。
「はーっ!」
そして、耐えきった。神の光の衝撃は去った。
「──!」
だが、アイネスの姿も無かった。
それに気付いた時には、もう終わっていた。
「アイネ……」
振り返ろうとしたその首元に、刃がチラ見えする。
「!」
背後から、声が掛かる。
「ゲームオーバーだ、リリア」
リリアは驚いた表情をしていたが、直ぐに目を伏せ、微笑を洩らした。
「────ええ、そうね」
数刻後。
二人は変わらず草原を進んでいた。
「なあリリア、結局さっきのなんだったんだ?」
「言ったでしょ? あんたの力を見極めるって!」
「いや、そうなんだが……出立する時と言ってること矛盾してないか?」
「いやー頭ではわかってるんだけどね? 私の本能がそうしろって言うから」
「難儀な本能で」
「なにそれ? 私の事バカにしてる?」
「さぁ、どうだか」
「あーっ何その顔! 絶対バカにしてるでしょ! 私Aランク冒険者なんだよーっ!」
「そればっかだなお前! 嫌な奴だと思われるぞ!?」
「なにをー!?」
「なんだとー!?」
ギャーギャー言い合いを続けながらも、二人は仲良く並んで歩いた。
旅は、まだまだ続く。
【続く】