白々しい夕方に咲く花
放課後の教室に、机もなく茶色の床がテカっている。
思春期に入ってからずっと腹が立っていた。学校なんて
行ってどうなるんだよ、必要もないような勉強だけ続けて
そのまんま死んでいく。そうとしか思えない。
大斗は壁を蹴りつける。薄汚れた、白々しいクリーム色に
靴底を焼きつけてやった。廊下、遠くから、カッタカッタ足音が聞こえる。
それだけで身体能力がうかがえる響き。
「たーのもー、たのも、たのもー!」
大声を上げて、教室に入って来るのは海斗。長身で天然パーマ、
この高校では、喧嘩で勝てるやつがいない。名前が似ているだけで
兄弟だと思われたり、付き合っている女にちょっかいを出してきたりと。
大斗には、邪魔な丸太を見るようだった。
「相変わらず、デカいだけ。うるせえだけ」
「んでー、用ってなにー?」
白々しく、とても白々しく、指を差して問いかけていく。
「学校って、何の為に行くんだ。答えろよ」
「遊ぶためー。だろー」
アメリカ人みたいに、肩をすくめたジェスチャーで挑発していく。
「ちがう、勉強するためだ。人間は学ぶ生き物だからな」
「はは、お前が勉強。おれらは仲間だろ、不良に学ぶことはねーよ」
指を自分側に差して、示す。かかってこい。
「勉強すんじゃねーの?けっきょく、ケンカじゃん」
「喧嘩の勉強だよデクノ坊が」
右ストレートを叩き込む。後ろを振り返るみたいに、くいっと
回避する海斗。ニヤついて、不気味なロボットダンスを踊ると、
そのまま長い手足で殴ってくる。
受けて、受けて、受けて回避。それからの、一回転してアゴへ
肘を打ちつける。ニヤついたまま、海斗はぶっ倒れる。
「あー、はじめて負けたかも。負けるわけねえんだけどなー…」
「体育の先生に教えてもらった空手」
「なるほどー…」
海斗はどうしようもない不良だった。だけども、校庭に咲いていた
スミレの花を踏んだ後に、悲しい顔をしたのを、大斗は見逃さなかった。
勉強は嫌いでも、美しいものが好きなんじゃないかと、歯痒い
疑念が芽生えていた。
「俺とアーティスト目指さないか」
「ふへへ、きもちわるい」
フラワーアートの本を、倒れて笑う木偶の坊の腹に投げる。
その日、その夕方からもう二人が会う事はなかった。
殴り合う必要はなくなったから。