2『無職、家を建てる。』
「で、どこに住むんですか?」
村長の質問に気付く。あ、ボクの住む土地あるのかな。
「あーえーっと、税とかありますーよね?」
「え、そっち?」
村長は目を丸くする。何かおかしいだろうか。ボクは元勇者だから税なんて払わなかった。言うなれば、合法脱税をしてきた。どうせなら王様にそれを言えば、良かった。
「はい、そっちです。」
ボクのありったけの眼力をぶつける。村長は若干、後ずさりをするが、ボクは辞めない。
しばらくの競り合いの後、勝ったのはボクだった。
「わ、分かりました……。最初の月は免除します。」
「よっしゃ!」
思わずガッツポーズ。さすがに家もない状況で税はひどい。というか払いたくない。
「それは良いのですが……家はどうしますか?」
村長は汗をかいているのか、ハンカチで額の汗を拭う。
「────?それは大丈夫です。作りますから。」
「「「────は?」」」
村長の家に集まるボク以外の全員の息が合う瞬間だった。
「じゃあ、ついてきてください。」
ボクは農民を連れて、村を歩いた。良いところ無いかな。
「あ。……あれなんてどうだ?」
一点を指さす。そこそこ広い土地がポッカリと空いている。家を作るのに最適な大きさだ。広い庭もとれるな。
「そこは……駄目です。今まで、あそこに何度も家を作ろうとしたのですが、地下に住む害獣が邪魔をするのです。」
農民達は口を揃えて言う。そう言うならば、そうなのだろう。少し見てみよう。【至高魔法:千里眼】。
どんなに遠い距離でも閉ざされた空間でも見通し、見透かす魔法だ。昔から便利で愛用していた。人に使った時は相手にも気付かれるから覗き見は出来なかった。……そう、出来なかったのだ。
辛い過去の思い出を思い出しかけるが、それよりも目にした光景に興味を惹かれた。これは……!
「モッグゥーラァッ!」
「『もっぐぅーらぁっ』?」
村長は首を傾げる。
「ノンノン。モッグゥーラァッ!」
「モッグゥーラァッ!」
「ふむ……なかなかやるな。だが、まだ甘い……。」
脳内で軽快なリズムと共に『村長との友情が深まった!』という文句が流れる。
「さて、どうするかな。」
モッグゥーラァッ────改め、モグラはスヤスヤと寝入っていた。
「モグラは寝てるみたいだな。」
「えっ────モッグゥーラァッって……」
「そんな事は些細な事だ。それよりもこのモグラを取り敢えず放置して、家を作ってみよう。」
村長の呆れた視線を躱しつつ、魔法を。【上級魔法:建築】。ゴゴゴゴゴと大きな地響きを鳴らしながら、地面から完成された家が現れる。農村には似合わないから、そこそこ現代風にしている。
「なっ────家が!」
農民達は魔法に驚いているようだ。あまり見る機会は無いのだろう。知らないだろうから、言っておこう。
「あ、因みに内装も完成している。」
しばらく口を開いたまま閉まらない農民達だったが、ボクの声で思い出すように動き出す。
「すごいぞ、このあんちゃん。若いのにやるなぁ……。」
「なかなかだが、俺の方がすっげぇぞ!」
「ふん、俺の方が!」
「あんた達はおだまり!」
喧嘩していた子供二人が叱られる。ボクはそれを傍観していた村長に話し掛ける。
「という訳です。一応、家の下に罠も仕掛けたので、モグラが暴れれば捕らえられるはずです。ボクはここで寝ますが、イイですか?」
「ああ……ええ、はい。大丈夫です。それよりモッグゥーラァッは?」
まだそのネタを引き摺っているようだった。なかなか執念深いな。モグラなのに。
「モッグゥーラァッ?何だそれは?」
ボクは知らないようにする。
「……」
村長は呆然とする。農民達が騒ぐ中、ボクは家に入って行った。しかし、それを止める者が。
「……あ、あの!」
「……?どうしたの?」
声を掛けて来たのは女の子だった。どこかで見た事がある気がすると思ったら、ボクが最初に回復処置をした子だった。
「助けて下さってありがとうございます!」
「別にボクは助けたとは思ってないから大丈夫。さすがに病気の人がいたら出来る限りの治療をするのは当たり前だよ。」
ボクはそう言ったが、女の子は首を振る。
「いえ、私は当たり前でも皆を救って下さったネルトさんはすごいと思います!」
そこまで言われれば、いくらボクでも悪い気はしない。
「そうか、なら良かった。」
最大限の抵抗をして、ボクは引きこもった。
「……お風呂に入って、寝よう。」
スローライフ初日。日が暮れるのを窓から眺めたボクはそう呟いた。ああ、スローライフ最高だ。