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1『ボク、スローライフ始めます。』

 千年の戦いは今終わった。勇者と魔王。最後に生き残ったのは勇者だった。魔王は膝をつく。


「くっ……俺の負けだ。まさか俺が負けとは、な。」


 魔王は長い年月を思い出す。魔王として誕生し、世界を震撼させた日から、今日この日まで。走馬燈、なのだろう。そうして世界は平和になった。


「さあ、帰ろう。ボクの出番はこれで終わったんだ。」


 これからは勇者じゃない。世界最強の勇者は卒業した。これからは一人の民として生きたい。


 ボクは生まれた地『レグニア王国』へ帰った。


「王様。ボクはこれで役目を果たしました。これからは王国の一人の民として生きます。では。」


 王様の元を去る。魔法を極めたボクは息をするように魔法を使える。【極致魔法:転移テレポート】。これが今使った魔法だ。とても便利な魔法だが、魔法の中でも最高峰に難易度が高い魔法だ。


「ここに家を作ろう。」


 レグニア王国から遠く離れた農村に来た。


「おーい、誰かいませんか?」


 寂しい農村で大きな声で尋ねる。農村では声一つしなかった。望むはスローライフ。事件なんていらない。事件なんて――――!!


 ボクが心の内でそう叫んでいると、一軒の家から小さな声が聞こえてきた。


「だ……誰か」


 ボクは何か違和感を感じて、農民の方へ近づく。開かれた扉のそばに倒れていたのは小さな女の子。それも腕全体に疱疹が広がっている。


「これは何!?」


 感染を危惧して、身体には触れずに尋ねる。少女はか細い声で答えた。


「感染症……。村のみんなに感染したの。体中がブツブツだらけになって……。」


 感染症か。さすがにこの状況で見逃すほど、ボクは勇者の過去を捨ててはいない。力を見せるのはあまり嬉しくはないが、非常事態だ。後で記憶でも操作してしまえばよい。とりあえずは治療だ。


 ボクは魔法を口の中で唱える。【至高魔法:超回復ハイヒール】。少女の身体がほのかな光に包まれ、疱疹が消えていく。苦しげだった少女の顔は和らぐ。


「……ありがとうございます。まさか生きられるとは思いませんでした。っ――――それより!!」


 思い出したように少女は声を荒げる。ボクは少女の肩に手を置く。


「一旦、落ち着いて。そして、手短に他の人達について話してくれ。」


 少女は一度、深呼吸をする。


「すぅ――――はぁ―――――。落ち着きました。他の人はみんな村長さんの家にいます。お願いします!みんなを!」


「ここまで来たら仕方ないな……分かったよ。急いで行こう。」


 ボク達は走る。村長の家は数軒先にある大きな家だった。そこで周りに感染しないように固まっているようだ。まあ、もうみんな感染してるみたいだけど……。


 扉を開くと、中では咳き込む声が聞こえる。どうやら症状が悪化しているようだ。急ぐ必要がありそうだ。ボクは魔法の準備をする。【至高魔法:広範囲超回復エリアハイヒール】。


 中に寝ていた数十人の農民は全員回復した。驚いたように立ち上がったり、腕を回したりしている。その中で一人ボクに話し掛けてくる人がいた。


「すみません、これは貴方が――――?」


「はい、そうです。迷惑でしたか?」


「いえいえ!迷惑なんて……そんな。私達は全員死ぬ運命だったのです。それを救っていただいて感謝しかありません。」


「他にまだ感染したままの人はいますか?」


 辺りを見ますが、この家にはもう感染者は残っていないようだ。だが、まだに他の家にいるかも。


「いえ――――これで全員です。元々いた他の農民は皆、他の村に越させました。どうせ助からない命だと分かっていたからです。」


「そうですか……。」


 そこまでの難病だったようだ。


「でも、どうしてこんな病気に?」


「全てはこの村を訪れた商人が原因です。無償で食べ物を提供してくれた時には、感謝ばかりで何も考えていなかったのです。それらは全て毒物でした。気付いた時にはもう……。しかもその感染症は感染者に一度でも触れれば、感染するという厄介な病なのです。」


 ボクは一応のために身体に触らないようにいしていたが、それは正解だったようだ。


「一つ、いいですか?」


「――――?はい、何でしょう。」


「ボクはゆったりと暮らせる場所を探していて、ここが気に入ったんですけど、住んでもいいですか?」


 ただでさえ病気で慌ただしいこの村にお世話になるのは迷惑だろう。だが、ボクは魔法で他人の世話を受けずに生きることはできる。迷惑だと言われれば、素直に引こう。


「あっ、病気の治療費などはいりませんよ。魔法ですので。」


「そんな事を言わないでください。貴方は私達の救世主です。是非、住んでいただきたい。」


「……ありがとうございます。」


 改めて農民の優しさに触れた気分だ。思わず笑みが零れる。


「私はウーラル。この村の村長をしています。」


「ボクはネルト。無職です。」


 こうしてボクのスローライフは始まった。




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