プロローグ
皆さん、こんにちは。
この小説を読んでいただき誠に有難うございます。m(_ _)m
ここで長々ということはございません。
ですが、これだけはご了承ください。
次回の投稿はいつになるかはわからないという事を。
では、本編をどうぞ
そこは儀式用の部屋だった。だが、ただの儀式ではなく、王様に勲章や爵位を賜るための部屋、俗に言う王座の間と呼ばれる場所だった。
当然ながら、そこには王様とその家臣達がいる。王様は赤い、柔らかそうなクッションが敷き詰まった金色に光る椅子に腰掛けていた。そして、その椅子の下から伸びる赤いカーペットに一人の白銀に輝く全身鎧を身にまとった騎士が跪いていた。
「陛下、陣の準備が整ったとのことです」
「そうか。大義であった。では、後は時が満ちるのを待つだけか。ふふふ、ようやく余の願いが叶う」
◇◆◇◆
柔らかな布団が俺という人間の身体を優しく包み込んでくれているのに、何故目を覚まさなければならないのか、それが不思議でたまらない。
こんなに暖かく、優しく、かといって決して窮屈ではないのに顔は外の空気と接しているため少し寒い。だから顔すらも布団の中に沈める。これをする事によってある程度は外の音を遮断してくれる。
「あぁ、素晴らしきかなお布団よ。もう一生君を離さない」
「じゃあいっそのこと一生そのままでいれば? 夏になれば暑くなって離さざる終えないけどね」
若干の嫌味が入った凛とした声を聞き少しだけ布団の中から顔を出すと、ベッドの横で仁王像も逃げ出すほど堂の入った仁王立ちをした女性がいた。
艶のある黒髪を腰まで伸ばしていて、整った輪郭に切れ長の鋭い目元と高い鼻、一文字に引き結んだ薄いピンクの唇という美貌を持った上に、長く綺麗な手脚。身長は180センチを僅かに超えたという女性にしてはかなりの長身で、更にグラビアアイドルやモデルといった職業を生業とした人物の様な体型をしているのだ。
彼女を一目見れば、同性愛者か重度のロリコンでもない限り、誰もが一目惚れすること間違いなしの美女だが、俺からすれば見慣れた顔である。
彼女の名前は織野 弥生といい、俺の小さい時からの付き合いで、幼馴染みや腐れ縁といった関係だ。
「ほら、さっさと布団から出なさいよ。いつもそれで私が遅刻しかけるんだもの」
「じゃあ俺を放っておけばいいじゃないか」
「一度、放っていたら結局ずっとそのままだったことがあったじゃないのよ」
まぁいつまでもこうしていると流石に弥生に怒られてから学校に行かないといけなくなるし、もうそろそろ起きるとするか。
「全く、やっと起きた。さっさと顔を洗って歯も磨いてからテーブルに置いてあるパンでも齧って来なさいよ」
「はいはい。分かりましたよ」
そういうと、弥生は部屋から出ていく。また、俺もいつもの生返事をしてから部屋を出て、洗面所に向かう。洗面所の鏡に映るのはいつも通りの俺の顔だ。
目元までかかった黒髪から覗く眼が根暗な雰囲気を醸し出しているが、とても鋭く、光の当たり具合で髪の奥でギラギラと光っても見える。また、それはたとえ髪を切っても変わることはなく、その上身長も187センチとなかなかに高く、大体の人を見下ろす感じになってしまう。
また、そのせいなのか俺の顔はよく人に柄が悪い顔つきをしているといわれ、真顔でいるのに目つきが怖いと言われたり、笑うと鬼の様だと言われたりするのだ。この顔のせいで友人もあまり居なく、中学の時は一緒にいてくれているのは弥生だけだったし、弥生と一緒に登下校を繰り返していたことで周りの男子達から軽いイジメに遭うというのもあった。
そんなことを思い出しながら顔を洗う。その後、リビングに向かうと父さんと母さんがいた。
「おはよう、月華」
「おはよう、父さん、母さん」
父さんは俺と同じくらいの背丈のイケメンだ。目は俺と違って鋭くなく、ガタイもいい。それに、母さんも美人で弥生と同じくらいの背丈に化粧をせずともテレビに出ている女優さんと美人さんコンテストに出ても優勝してしまいそうなほどだ。更にいうと、両親の歳は今年で40を達したのだが、その美貌は全くと言っていいほど衰えてはいない。ここで疑問に思うのは、何故彼等のようなイケメンと美人から俺のような柄の悪そうな顔の人間が生まれるのだろうか。それだけは本当に謎である。
「はい、今日は朝食をキチンと食べなさいよ」
母さんが朝食として薄く焼かれたトーストを二斤皿の上に置き、俺に出してくる。俺はそれを無言で食べて、コップに注がれた牛乳で流し込み、制服に着替え、家を出る。
「いってきま〜す」
「「いってらっしゃ〜い」」
「おはよう、月華くん」
家から出てしばらくブラブラと歩いていると右側から男の聞きなれた声が聞こえてきた。ふっと、顔を右にやると笑顔がさわやかなやつがいた。
陽にあたり、茶色が金色に輝いている髪を無造作に流し、キラッとした眼を輝かせ、高い鼻を僅かに上に向け白い歯を少しだけ見せたTHEイケメンといった男だ。すらっとした身体だが、付くところは付いているためにひょろひょろとした印象は全くないのだが……なんとなくウザく感じる。実際にはウザくはないのだが。
「あぁ、おはよう。くまざわ」
彼の名は熊沢優。成績優秀、スポーツ万能、おまけに八方美人ときて、親が金持ち。更に超イケメンである。ー男に言うのは癪だがーまさに神様が自らに作り出したかのようだ。
しかも、熊沢はこんな柄の悪そうな俺にも隔てなく接してくれる唯一無二の友だ。
「今日は朝から何かが起きそうな気がするんだけど、君はどう思う?」
「そうか? まぁ、お前がそう思うのなら何かが起きるんだろうな」
そういうことを話しながら歩いていると、いつのまにか学校に到着していた。
「やっと来たわね」
当然ながら俺よりも先に家を出た弥生は学校にいて、校門の前で俺を待ち構えていた。
「ねぇ、月華くん。君の幼馴染が呼んでいるよ」
「そのようだな。まぁ、気にしなくてもいいだろう。お前もいつもそんなことばかり気にしなくてもいいよ。面倒だろ?」
「そんな事はないよ。君と幼馴染との言い争いは見ていて面白いからね」
「さっきから何をずっとブツブツと話しているの?」
「「いいや。別に何も」」
「ふーん。……まぁそんな事はいいから早く教室に入りましょうよ」
いつも通りの、本当にいつも通りの日常を過ごしていて、教室に入る。すると先程まで廊下にまで響いていた騒ぎ声がまるで嘘のように静かになった。
原因は分かっている。それは俺と弥生と優だ。
弥生はこの学校で一番の美人と評判で、優はこの学校で一番のイケメンと評判なのに対し、俺はこの学校で一番怖いと評判なのだ。それに、俺は顔が怖いだけで腕っ節は強くないからなのか、俺が弥生や優と一緒にいるのが周りの人間からすると面白くないのだろう。
その証に教室に入った瞬間、周りの人が蔑むような目で俺を見つめていた。だが、そんなものは慣れたものだ。俺は気にせず、自分の席に座る。すると何処にでも居るようなチンピラ四人集が俺を取り囲んだ。
「おい、十六夜。俺らに挨拶も無しに何椅子に座ってんだよ。あ"ぁ"?」
「そうだよ! なんでだよ!」
「あ"ぁ"そうだな」
「うんうん」
コイツらの名前は上から裃、佐藤、辻中、高須。全員特に印象深い容姿ではなく、本当に何処にでも居そうな雰囲気を醸し出している集団だ。
「そんなこと言われても困るんだが……」
「ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねぇよ!」
更に、コイツらのリーダーである裃は何故か知らないがいつも俺に絡みかかってくる。正直鬱陶しい。早く何処かに行ってくれないかなぁ……
「は〜い、みなさん。席についてくださいねぇ」
そんなことを考えているとチャイムが鳴り、担任である結城 小鳥が現われ、生徒に席に着くように促す。因みに結城先生は今年で27歳になる。
「キャアアァァァァァア!!」
「なんだこれ!!」
「どうなってんだ!?」
「おぉ、遂に我の時代が来るのか!!」
「助けてくれえぇぇぇぇ」
「皆さーん! おち、落ち着いてくださーーい! いっ、一旦落ち着くのですよー!!」
ホームルーム中は眠るのが俺の日課なので、いつも通り眠っていると周りの人たちが急に騒ぎ出した。「なんだろう?」と思い、目を開けるとそこには朝来た時にはなかった魔法陣っぽい何かがが床に映し出されていて、その陣が光り輝いていた。みんなと一緒になって慌てて逃げようと動き出す。が、それは功を為さず、俺の目の前があっという間に真っ白に染まり、意識もだんだんと薄くなり、真っ白から真っ黒になり、意識を失った。
◇◆◇◆
「はぁ、はぁ、よ、ようやくですね」
「やった、成功です!」
「よっしゃあああぁぁぁぁ!」
「やりましたよ姫様!!」
「……疲れた」
意識がだんだんと浮上して来る。周りには数々の男女の喜びの声が聞こえてくる。目を開けて、周りを見回すと何処かの地下にいるのだろう、辺りが暗すぎて目が慣れるまでに少し時間がかかってしまった。だが、目が慣れてくるとはっきりとわかる。
周りには俺の他にクラスメイト達全員がいた。それに床には俺たちが来たのだろう陣と同じようなものが書かれてあった。辺りは暗く、地下というよりも洞窟の中といわれた方が信じてしまいそうなほど床がボコボコで土や石がそこかしこにある。
先程声のした方を見ると、黒い装束を着た男や女が陣を囲んで息を切らしながら立っていた。そんなに息切れが激しいのなら座ればいいのに、と思うほど息を切らしていた。
「あ、あのー、すいません。あなた達は一体……」
「おぉ。喋ったぞ!」
「言語の翻訳の方も成功したか」
「それとも使う言語が同じなのか」
「……興味深い」
「みなさん、一度落ち着いてください!」
優が声をかけると周りの男達は何かに興奮したかのように口々に訳のわからない事を言い始めた。すると、女性の声が男達に抑えるように促し、先程のざわめきがまるで嘘だったかのように静まり返った。
「あのー」
「先程はすいません勇者様方! 私の名はクローズ・アルフ・ラミーユと申します。この国、ラミーユ王国の第二王女です。以後、お見知り置きを」
どうやら俺たちは憶測だが、異世界というところに来てしまったようだった。はてさて、これから先は一体どうなるのやら。
「あの〜、すいません。元の世界には戻れるんですのね?」
優が先程のクローズなんたらさんに思って当然の質問をする。が、対してクローズなんたらさん達は顔色を悪くするだけで何も言わない。
「おい! 俺たちは帰れるんだろうなぁ! もし帰れなかったら、これは誘拐だぞ!!」
「そうだ! そうだ!」
「帰してよ! 私たちを帰してよ!!」
「もういや!!」
クローズなんたらさん達の顔色から帰れない事を察したクラスメイト達が騒ぎ出す。まさに阿鼻叫喚だ。
「騒がしいぞ、異世界の勇者達よ」
騒いでいたというのにやけにはっきりと聞こえた男らしい声に周りの皆が静まる。声の方を見れば、白銀の鎧を纏った者達が赤のマントを纏い、金の王冠を被ったすごく偉そうな雰囲気を醸し出すまさに王様というような男を警護していた。ちなみに、先程の声の主は王様のような男だ。
「あんた、誰だよ」
「余はラミーユ王国の王。アルカトリア・アルフ・ラミーユである。余の前であるぞ。皆の者、跪け!」
誰も言わなかったら俺が言う覚悟でいたが、裃が代行していってくれた。裃グッジョブ! しかし、本当に王様なのか。というか偉そうだな。いきなり跪け! はないだろうに。でも跪かなければ王様の後ろにいる鎧達が抜刀する気がするので跪く。だが、あるメンバー以外が空気を読んで跪いている間にそのメンバーの裃と佐藤、辻中と高須は跪くどころか、王様の前まで行き、睨みつけて文句を言っていた。バカだろ。
「おいおい、いきなり来て跪けだと? なめてんのかあ"ぁ"?」
「その通りだ! このおっさんはオレたちをバカにしてるんだ!」
「そうだよ」
「うんうん」
「そうか。跪くどころか、余に意見しようというのか。ならば良い。我が近衛騎士達よ、この者達の首を切れ」
「「「かしこましりました。我が王よ」」」
「お、おい、本気か? 冗談だろ?」
「やれ」
「おい、ちょっとま……」
まさに瞬殺だった。鎧達、改めて近衛騎士達が剣を抜いたと思った瞬間、裃達の首が飛び、俺たちの方まで転がってきた。頭の無い身体からは血が噴水のように吹き出して床を汚した。
何が起きたのかわからず、5秒程経過した後、後ろにいた誰かから「うぇー」という声とともに、ビチャビチャという嘔吐をした音が聞こえ、それがまるで合図だったかのように皆が吐き出した。
王様達は汚いモノを見るような目でこちらをジッと見つめていた。俺はなんとか耐えたが周りの皆は耐えることが叶わなかったのだろう。逆らえば殺されると思ったのか吐いた後誰も王様に対して何故殺したのかと問い詰めたりをせずに下を見つめている。
クローズなんたらさん達も何も言わず、辺りは気まずい空気と死体から溢れる血の匂いが占領している。
もし、今後本当に今までの生活に戻れないのだとしたら、それは本当に地獄のような日々になるのだろう。