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第7話 初めての依頼

遅くなってぇ! 申し訳ありませんでしたぁ!

「リュークさん。こう言うのはあれなんですが、人を殺めるコツはありますか?」

「え? ……ああそういうことか。盗賊とかと遭遇したときとかかい?」

「はい。私、いざそういうときになったら竦んでしまいそうで」


 冒険者ギルドへ向かう道中。殺人を犯す事に忌避感を感じているメアは、冒険者として何度か殺めているであろうリュークに人を殺めるコツを聞く。殺めるコツといっても、人を殺める前後で自分が思い悩まないようにするためにはどうするべきかといったものだが。


「う~ん。メアは変なとこで悩んでいるね。盗賊なんて碌なことしない連中だよ? それこそ男は殺し、女は犯すを地で行く連中だ。そんな奴らを殺めることのどこに悩む要素があるんだい?」

「盗賊も人ですから。人を殺めるという行為自体に忌避感があると言いますか」

「なるほど。ゴブリンとかは大丈夫?」

「ゴブリンですか」


 ゴブリンと言われ、メアは自分の記憶からゴブリンについて呼び起こす。


(ゴブリンか。LaDOでいたなぁ…… 俺も始めた頃にはお世話になったもんだ。他種族との交配でも子孫を残せるなんて設定があったっけなぁ。そのせいで”その手”の本が出回ったもんだ)


 LaDOにおけるゴブリンとは、全身緑色の醜悪な人型の魔物のことだ。それこそ始めたばかりの初心者が相手取るのに適度な魔物であり、少し慣れれば簡単に討伐が可能である。ただあくまでそれは単体での話であり、慣れた気になってゴブリンの集団に立ち向かうと見事に返り討ちにあってしまう。そのため、初心者にはいい薬ということで一部の間ではゴブリン先生という愛称で親しまれていた。


 蛇足ではあるが、他種族との交配が可能という設定が公開されて以来、そのゴブリン先生はある業界で非常に活躍したという話はLaDOプレイヤーの間では有名である。


「はい。ゴブリンぐらいなら大丈夫だとおもいます」

「ならそういった魔物を討伐して慣れていくしかないね。あとは盗賊をゴブリンかなんかだと自分に言い聞かせればいいんじゃないかなぁ? 僕はそういったことで悩んだことはないから、あまりいいアドバイスは出来そうにないよ。ごめんね」

「そうですか……」


 メアが落胆の声を発したとほぼ同時にギルドが見えてくる。ギルドの建物が徐々に視界の中で大きくなっていくにつれ、メアの心の中で倦怠感のようなものが生まれていく。


(また見られるのかね…… ただでさえ今もちょくちょく見られているのに)


 メアは外見からして13歳と前世であればまだ幼いと言えるような年齢であり、同年代を除き”そういった”対象に見られることは少ない。しかし15歳で成人となるこの世界からしてみれば、13歳はほぼ大人であり、例え子をなしていたとしても奇異の目で見られることはないのだ。


 見目麗しいメアは通りを歩いているだけで周囲の男性だけでなく、女性からも衆目を集めてしまう。男性からは獣欲のこもった視線を、女性からは羨望と嫉妬が入り混じった視線を。


(あーやだやだ。相変わらず胸と尻あたりばかり見つめやがって、気持ち悪いったらありゃしない)


 心の中で毒づきつつも、リュークがギルドの入り口である両開きのドアを開けて入っていくのに続く。そしてギルドに入った瞬間、一気に視線が集まる。


(ひぃぃ。やっぱりすっごい見られてる!)


 当然ながら集まった視線に比例して、メアに対する視線も増えることになる。一度味わったことのあるものではあったが、当分慣れることはないだろうと痛烈に実感した瞬間だった。


「僕はちょっと時間がかかりそうだけど、メアはどうするんだい?」

「そっそうですね。依頼を受けようと思います。ゴブリンの討伐というのはあるんですか?」

「ゴブリンの討伐なら年中あるよ。依頼板に掲載されていると思うから、見てくるといい」

「分かりました。それでは、今日のところはお別れですかね? お世話になりました。このお礼はいつか必ずします」

「いいからいいから。困っている人がいたら助けるのは当然さ」


 今までの礼をするように頭を下げるメアを見て、僅かに照れを含ませてそれに対する返答をするリューク。そして何かを思い出したかのようにあっと呟いた。


「忘れてた。今の時間帯だと野営になると思うよ。ここから森って結構遠いし」


 王都ともなれば防御は徹底されなければならない。そのために周囲は開けた平野になっている。ゴブリンが生息する森に行くためには、なかなかの時間を浪費しなければならなかった。


「野営ですか…… 分かりました。準備を怠らないようにしていきます」

「メアなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね? ゴブリンもそうだし、前に盗賊が出たんだ。今回も出るかもしれない」

「はい」

「うん。それじゃ、また会おう!」


 リュークはメアに向けて大きく右手を上げてギルドの奥へと入っていく。同じように右手を上げてリュークを見届けたメアは依頼板へと向かっていった。



「ふ~。なかなか見つからないもんだな」


 風が頬を撫で、木々が揺らめき涼しげな音を奏でる。

 依頼板にあったゴブリン討伐を受注したメアはそのまま森へ向かった。普通であれば飢えを凌ぐ為の食料などを持ち運ばなければならない。そして食料などの重さから行動が制限されるものだが、食事も睡眠も必要ない種族であるメアは当然ながら食料などを必要としない。そのため食料などを持ち運ぶ必要がなく、かなり身軽に行動できるのだ。といってもメアほどの存在であれば食料などの重さなど無いに等しく、仮に持ち運ぶ必要があったとしても一切行動が制限されることはないのだが。


「もっと奥か? 別に迷っても食事も睡眠も必要ないこの体なら問題はないしな。奥に行ってみよう」


 駆け出せば、一瞬で音さえも置き去りにするかのような速さとなる。普通ならばそのまま木に激突してしまいそうだが、速さだけでなく反射神経も極限までに高められたメアは木を掠めるように避けていく。


「ひゃっほう! 気持ちいいなぁ!」


 風が頬を撫でるように流れていく感覚と、走る速度を維持しながらも難なく木を回避できる感覚。前世では味わいたくとも到底味わうことの出来なかった感覚にメアは酔いしれていた。


「よし、このへんでいいか。ここからまた再探索といこう」


 数分走り通し中々奥まったところまで来たメアは走行から歩行へと切り替え、探索を再開する。辺りを見渡せば先程よりも木々が生い茂っており、薄暗い雰囲気となっている。まさに魔物が出没するのにうってつけの雰囲気といえた。


「ん? あれか?」


 ある程度歩いて探索を続けていると、メアは前方に全身緑色の人型を発見する。単独で行動しているようで、あちらはメアに気づいてはいない。


「あれがゴブリンか。奇襲に最適なタイミングだな。だがここは……」


 声を潜め、呼吸を整えてこれから行う殺しに備える。持っている片手剣を構え直し、そして────


「はぁっ!」


 一閃。凄まじい速度で放たれた斬撃は、ゴブリンに攻撃されたとさえ感じさせずに、一瞬で葬り去った。


「うっ…… ふっ、大丈夫だ。大丈夫」


 振り返れば目に飛び込んでくる血の噴水。体の奥底からこみ上げる不快感を飲み込み、自分の精神を安定させていく。


「よし、まだちょっと気持ち悪いが大丈夫だ。右耳だっけか」


 ゴブリンを狩ったという証として、ギルドに右耳を提示しなければならない。そのためメアは吐き気を抑え込みながらも、つい先程刎ね飛ばしたゴブリンの頭から右耳を切り取る。


「持っているのも気持ち悪いな…… インベントリにぶちこんでおこう。にしても、こういうの速く慣れとかないとなぁ」


 インベントリにゴブリンの右耳をしまいつつ、これからの日常に思いを馳せる。何気なしに登録した冒険者ギルドではあったものの、メアはこの職業でこれからも生活していくような予感がしていた。



 太陽が姿を隠し、夜になる。

 ゴブリンの討伐を一通り終えたメアは、野営のための大きめの木を見繕い、その木の枝に座り込んでいた。月明かりなどの光しかない森の中は非常に暗いものの、現人神であるメアは特に視界が制限されるわけでもなく、昼間のように活動できるのだ。


 そしてメアほどの存在であれば、その日のうちにゴブリンを討伐して王都に帰還することが可能だった。しかしメアは野営もしていたほうが、これからのための良い経験になると思いこうして野営しているのである。


「はぁ、凄い綺麗だな」


 見上げれば満天の星空。前世では地上の光で薄れていた星々の光も、明かりのない森の中では煌々と輝いており、その存在を強く主張している。


「ゴブリンといい、リュークの使っていたスキルといい、妙にLaDOに似ているよなぁ。案外”近い”世界だったりしてな。まあそれを知る方法はないか」


 生きてさえいればそれでいいな、と自問自答しゆっくりと目を閉じる。


「明日はゴブリン討伐の報酬をもらった後、宿探しだな。ただまあゴブリン討伐は控え……ないほうがいいよなぁやっぱり…… 慣れないといけないし」


 先程までしていたゴブリン討伐。3匹ほどの集団も難なく討伐したメアではあったが、メアにとって問題はその後だった。


「あ~、思い出すだけで気持ち悪い」


 刎ねられたことにより飛び上がるゴブリンの頭部。そして首の断面から噴き上がる血。慣れようとしてもそう簡単に慣れるようなものでもないのだ。そして何より────


「他にも、俺を見て興奮して……ひぃ! 思い出すだけで鳥肌が!」


 一度、こちらを認識させてから討伐しようと試みたことがあった。メアが自身をゴブリンに認識させようと前に出たのはいいものの、ゴブリンはメアの姿を認識するなり耳障りな声をあげて、腰に纏っている腰布を隆起させたのだ。


 それを目の当たりにしたメアは、次に獣欲のこもった目線をお約束とでもいうかのように叩き付けられたため、そのゴブリンを凄まじい速度で葬った。まさに光速と見紛うほどの速度で。


「やめだやめだ! もう寝よう!」


 嫌悪のループに入る前に、思考を無理やり中断する。そしてそのままの勢いで眠りにつこうと木の幹に背中を預け、体をリラックスさせていく。それに応えるように、メアの意識はゆっくりと眠りにおちていった。

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