戸惑いの末に
球技大会が終わり、私たちのクラスが総合三位。
一年生の中では、最高順位。
「皆、よく頑張った。と言うことで、俺からご褒美だ」
そう言い放ったのは、担任の宮原先生。そして、コンビニで買ってきたであろうドリンクが教壇の上に並べられた。
「一人一本ずつな。種類バラバラだが、適当に取れ」
って…。
相変わらず、適当な…。
クラス全員が教壇に群がる。
まぁ…残り物でいいか。
私は、群れがなくなった頃に教壇に向かう。
残っていたのは、ミルクティー。
好きなのだからいいか。
何て思いながら手にした。
「今日の一番の功労者の鞠山に拍手」
って、急に担任が言うから、何事かと思い先生を見た。
周りは、その言葉に賛同のようで、拍手してる。
はっ?私、何もしてないし…。
「私、何かしましたか?」
「お前さぁ、自分が出てた試合、全部勝ってただろ?」
えっ、そうだっけ?夢中だったから、気にしてなかった。
「それに女子バレーに水分補給として、スポーツドリンクの差し入れしたり、バスケ、サッカーとそれぞれに顔を出して応援してただろう?」
「それって、誰にでもできることですよね」
私の指摘に。
「そうかもしれないが、行動に移すことが出来る奴は、早々居ないぞ」
何て答えが返ってくる。
まぁ、試合はただ楽しむためにやってただけだし、体育館に行ったらバテ気味だったから、ドリンクを差し入れただけ。応援は、クラスのためにしたまでだ。それを誉められるのは、違う気がするんだけど…。
「亜耶。ここは、一先ず受け取っておけば」
梨花ちゃんの言葉に頷いた。
「今日は、部活動はないから、飲んだら帰れよ」
宮原先生は、そのまま教室を出ていこうとして。
「陸上部だけ、大会が近いから行うそうだ」
思い出したように言う。
やっぱり…。
「亜耶。頑張れ」
梨花ちゃんに背中を叩かれた。
「う、うん」
頷く私。
「亜耶ちゃん。大会の日、俺と梨花、応援に行くな」
龍也くんが言う。
「ありがとう。じゃあ、私行くね」
私は、鞄を掴んでで入り口に向かう。
「鞠山さん。頑張ってね」
クラス中が応援してくれる。
「うん。ありがとう」
私は、笑みを浮かべてお礼を言った。
部室に行くと、先輩達が愚痴っていた。
「あーあ。何でうちの部だけ練習あるんだろう」
「仕方ないじゃない。今度の土曜日が、大会じゃあね。それにあんたの彼は、同じ陸上部なんだから、問題無いじゃんか」
「そうだけどさ。こんな日ぐらい、デートしたいじゃない」
って…。
そういうものなのかなぁ。
私的には、部活でも一緒に居られるだけでいいと思うんだけど…。
好きな人が居るだけで、頑張れると思う。デートだけが楽しい訳じゃないと思うんだけど…。
「どうしたの鞠山さん?浮かない顔してるけど…」
先輩が私に話を振る。
「いえ。何でもありません」
私は、慌ててそう返した。
「体調が優れないのなら、今日は休んでもいいよ」
先輩が優しく言う。
「大丈夫です。今日も宜しくお願いします」
私は、そう言って着替えるとグランドに出た。
球技大会が終わって、そんなに経っていなかったため、体は解れていたので、ストレッチだけした(特に足首)。
「鞠山さん。今日は、タイム計るから」
先輩に言われて。
「わかりました」
そう答えた。
まぁ、今日は陸上部貸しきりみたいなものだし……。
取り合えず、軽く流した方がいいかな。
私は、トラックを2周することにした。
走り終えて、息を整えているところに。
「亜耶」
悠磨くんが声をかけてきた。
「悠磨くん」
「こっちで、リレーのタイムを計るって聞いて来たんだけど…」
そっか、悠磨くん2百とリレーだったっけ。
「うん。私たちも計測するって、聞いてる」
でも、まだメンバーが揃ってないよね。
周りを見渡してもそれぞれの競技練習をしてて、他に誰も居ない。
「三位入賞おめでとう」
突然言い出すから、何?って思ちゃった。
「うん。ありがとう。私一人の力じゃないけどね」
苦笑を浮かべる。
「あのさぁ、亜耶。一つ聞きたいことがあるんだけど…」
神妙な顔つきで聞いてくる。
「何?」
「その時計。ペアウォッチって本当か?」
えっ…。何で知ってるの?
どうしよう、ばれちゃったかな。
動揺しまくる私。
心臓がバクバクいってる。
「いやぁさ、透が、何処かのブランドのペアウォッチだって言ってたから…さ」
ハァー。何だ、湯川くんに聞いたのか…。彼なら知ってて当たり前だもの。
でも、どうやって誤魔化そう。
「うん。そうだよ」
取り敢えずは、肯定しておいた方がいいよね。
「じゃあ、片割れは?」
やっぱり気になるよね。
どうしよう…。
片割れは、遥さんの腕にある。
けど、ここで悠磨くんを哀しませたくない。
「片割れは、お兄ちゃんにあげたの」
嘘ついてごめん。でも“持ってる”って言って“見せて”って言われても直ぐに見せることが出来ない。だったら、悠磨くんに滅多に会わないお兄ちゃんにしておいた方が、傷つかないって思った。
「そうなんだ」
悠磨くんが、ホッとしたような哀しそうな、なんとも言えない表情を浮かべる。
そんな顔をさせたい訳じゃない。だけど、本当の事を言って、悲しませたくないってのが、私の気持ち。
「鞠山さん。タイム計るよ。あっ、渡辺くんも居たんだね。男子も一緒に計るから、宜しくね」
先輩に言われて。
「はい」
って返事をした。