疑問解決
「なぁ、透。前から聞きたいと思ってたんだけどさぁ、何で、そんなに財閥関係に詳しいんだ?」
そう、この前聞こうと思った日は、亜耶が男物の時計をしてて、それに動揺して、すっかり忘れてたんだ。
「あっ…、あ、うんと…」
何か戸惑ってる。
言えないことなのか?
オレの視線に耐えきれなくなったのか『ハァー』と溜め息を漏らす。
何だ?
「気になるか?」
透が確認するように聞いてきた。
オレは、首を縦に振る。
「わかった。ここじゃあ、話しにくいから場所変えよ」
そう言うと、人気の無い方へ歩き出した。
校舎裏(裏門に通じる場所)に移動した。
「何から、話せば良い?」
透がオレに聞いてきた。
「あの人…高橋さんの事。それから、亜耶のお兄さん夫婦の事。お前自身の事」
オレがそう口にすると。
「殆んど全部じゃないか…」
透が、空を仰ぎ見てから口を開いた。
「まずは、俺の家の事から話すな。俺の家は、湯川財閥の総帥で、財界からすれば、五本指にはいるぐらいの家柄だ。俺は、次男だから家を継ぐとかはないが、それなりの令嬢と婚約してる。…で、財界のトップに君臨してるのが、鞠山財閥。鞠山さんが、その孫娘。ここまでは、良いか?」
透が一旦言葉を切ってオレを見る。
オレは、それに頷く。
「彼女の兄嫁が、政界で五本指に入る沢口家のお嬢様。その沢口家の兄嫁になったのが、俺の姉なんだよ。…で、あの家は、資産価値でしか結婚させないガメツイ親父さんなんだ。だから、お嬢様をそう簡単に嫁がせるわけがなかった。政治の道具になるからな。だが、お嬢様が付き合っていたのが、鞠山家の跡取りだったから、直ぐに許しがもらえたんだと思う」
えっ…。
って事は…亜耶って、本当にお嬢様なんだ。
なんだか、現実味がない。
亜耶は、偉ぶったりしない。
だから、余計にそう思えないのだ。
「高橋財閥も、俺ん家と同じ格式の家柄だ。一時、傾きかけては居たが、最近建て直したって話がある。その立役者が、高橋遥さん。彼のずば抜けた戦略で元に…いや、それ以上に利益を出している」
企業の建て直しをあの人が…。
ハッ…。
「高橋家は、ホテル業を生業にしてるからな」
透が、付け足す。
「…で、その高橋さんと鞠山さんが、婚約関係なんだよ。鞠山家のトップにも気に入られてるんだ、高橋さんは」
それって、政略結婚に近いんじゃ…。
「悠磨が彼女を好きなのはわかってる。だけど、あの二人の関係は、悠磨でも解くことは出来ない。早いところ諦めた方がいい」
透が、憐れんだ顔をしてオレに忠告する。
そんなんで、オレが諦めるわけ無いだろ。
だったら、オレ自身があの人以上の事をすればいいことだ。
「それから、彼女がしてる時計だけど、さっきは忘れてくれって言ったが、ペアウォッチ。彼女が男物をしてるなら、何処かの男がもう一つの時計をしてる筈だ」
透が言い切った。
えっ…。
あの時計って、ペアウォッチだったのか。
じゃあ、もう片方って、誰に渡したんだ?
それとも亜耶自身が持ってるのか?
「悠磨。顔色が悪いぞ。休むか?」
透が心配そうに聞いてきた。
「イヤ。大丈夫だ」
オレは、そう答えた。
「それと、余談だがな。入学式に新入生代表挨拶をした奴も細川商事の子息だ」
と付け加えた。
本当に余談だ。
「この学園には、財界、政界の子息令嬢が少なからずいるんだよ。だから、少しでも鞠山家の恩恵を得ようとする人も居る筈。悠磨、彼女を守れよ」
透のエールが、心に染みる。
ってもなぁ……。
正直、そこまで凄いとは思わなかった。
亜耶がいたって、普通の女の子だって、ずっと思ってたけど、透の話を聞くとやっぱりお嬢様なんだなって思わされる。
「まぁ、彼女なら、自分の身ぐらい自分で守るだろうけど…」
また、意味深な言葉を呟く。
ん?
「…試合、応援しなくていいのか?」
急に話を変えやがった。
まぁ、大体の事を把握できたし、亜耶の応援でもするか…。
「ああ、そうだな」
そう言うとオレ達はテニスコートに向かった。