仕事の前に
どうしよう。
今日、亜耶の学校の球技大会(何で知ってるかって、伯父から連絡があったから)。
見たい。
…仕事放棄して行くわけにはいか無いし。
俺が、頭を抱え込んでると。
「どうした、遥?何悶えてるんだ?」
雅斗が怪訝な顔をして俺を見る。
「あー…」
これ言ったら、飽きられるか…。
「全く。お前が考え込んでる時は、亜耶の事だろうが」
言う前から飽きられてる。
「あのさぁ、亜耶の学校に行きたいなぁ…なんて」
俺が正直に口にすると。
「だと思った。球技大会が気になるのか?」
苦笑しながら言う。
アハハ…、ばれてるよ。
「ハァー。わかったよ。付き合ってやるから、その代わり、そのまま外回りだからな」
そう言ったかと思うと、鞄を掴んで立ち上がる。
「サンキュー」
俺も鞄をもって、後に続いた。
「で、どこで聞き付けたんだ」
社用車に乗り込むと雅斗が口を開いた。
俺は、運転席に雅斗は、後部座席に…。
「う~ん、理事長?」
「何で、疑問符。伯父さんからか…」
苦笑を漏らしながら、納得してる。
雅斗には言ってあるから、覚えていたんだろう。
「じゃあ、俺は車で待ってるから、亜耶に会ったら戻ってこいよ」
雅斗の優しさに感謝しながら、車を走らせた。
学校の門を潜り、駐車場に車を停め、降りるとグランドに向かう。
そういや、亜耶、どっちに出るんだ?
俺の時と変わっていないのなら、女子はバレーかテニスだ。
去年までテニスをやっていた亜耶の事だ、テニスの方だろうなと辺りをつけて、テニスコートの方へ足を向けた。
生徒達の後ろからコートを覗き込む。
今、ここにいるとは限らないけど…。
「あの子、可愛いよな。何年生なんだ?」
と何人かがその言葉に頷いてるのが伺える。
あの子って?
周りが、ザワついてる。
あっちこっちで声が上がってる。
まぁいいや。
俺は、自分の目的を果たすべきコートを見る。
居た。
亜耶が、素振りしてる。
うん。相変わらず可愛い。
こっち向かないかなァ。って思っていると亜耶の視線が、こっちに向いた。
ヤバ、通じたのか。
亜耶が、こっちを見て驚いた顔をしたかと思ったら、笑顔を向けてきた。
あっ、もうそんな顔見せるな。俺の方が、浮かれるだろうが…。
「あの子、こっち向いて笑った。俺にだろうか」
「イヤ。オレだって」
周りが騒ぎだす。
悪いな、餓鬼ども。亜耶が笑顔を向けたのは俺にだよ。
何て、優越感に浸っては居たが、仕事中だ、早く行かないと雅斗に怒られる。
俺は、腕時計をしてる腕を持ち上げて。
『ありがとう。ガンバれ』
亜耶に解るようにゆっくりと口を動かして言う。
亜耶の満面の笑顔が、周りを沸かせる。
うん、亜耶の笑顔でやる気が出た。
さて、仕事に戻るか。
待たせてる雅斗には、自販機でコーヒーでも買って戻れば、取り敢えず大丈夫だろう。
俺は、中庭に設置されてる自販機で雅斗が、好んで飲んでいるコーヒーを買い車に戻った。
「ありがとうな、雅斗」
俺は、運転席に乗り込むとコーヒーを差し出しながら、お礼を言った。
「亜耶に会えたか?」
「直接は無理だったけど、何とかお礼は言えた」
「そっか。この後の仕事は、遥が頑張れよ」
雅斗が、無茶ぶりをする。
「やれる範囲でなら、頑張るぞ」
俺が言うと苦笑を浮かべていた。