告白
それからだ。
亜耶に相応しい男になろうと努力し出したのは・・・。
片想いを脱却したくて、今日にでも告白したいと思ってる。
帰りは、確実に二人っきりになれる。
その時に、告白するつもりだ。
待ち合わせの駅に着く。
まだ、誰も来ていなかった。
ふー。
息を吐く。
「おっ、悠磨。相変わらず早いな」
順一が声をかけてきた。
「まぁな」
ボチボチとクラスメートが集まるなか、亜耶が来ない。
何かあったのか?だったら、連絡くらい入れてくる筈。
「亜耶が遅刻するなんて、珍しくないか?」
そう、亜耶は遅刻することなんてない。
何時も、人より早く来てるんだが・・・。
まさか、事故・・・。
って、頭の中に過った時だった。
「おーい。亜耶遅いよ」
と、誰かが声をあげた。
「ごめんごめん。出掛けにアクシデントがあって・・・」
亜耶が、複雑そうな顔をして言う。
よかった、何もなくて・・・。
ホッとしてたオレ。それも一時だけで。
「亜耶の後ろの人誰?」
水口が、亜耶の少し後ろを見て声をあげた。
オレも、その方を向く。
あっ・・・。
百メートル走の人だ。
オレは、確信していた。
二年前の体育祭で、亜耶のお兄さんと走ってた人で。
亜耶が振り返ると同時に。
「亜耶。やっと追いついた」
その人は、亜耶に親しそうに声をかける。
「遥さん!」
亜耶が驚きの顔と迷惑そうな顔を見せた。
そして。
「ああ、お兄ちゃんの友達・・・」
亜耶の言葉を遮って。
「亜耶のフィアンセの高橋遥だ。宜しく」
って、亜耶の肩を抱きながら笑顔で言う。
フィアンセって・・・。
亜耶の婚約者?
何、それ?
オレ、そんなこと一言も聞いた事がないんだが・・・。
そんな存在が居ることさえ知らない。
オレは自分の想いを告げる前から、失恋するのか・・・。
そんなのあり得ない。
オレが打ちのめされてる事を知ってか知らずか。
「皆、今の冗談だから、時間がもったいないから、早く行こう」
亜耶が声をかける。
なんだ。冗談か・・・。
でも、笑えない冗談だ。
オレにとっては・・・。
「なぁ、さっきの人。結構、年上なんじゃないか?」
義幸が、オレに気を使ってなのかそう言い出した。
「私とお兄ちゃん十離れてるからね」
それを聞いていた亜耶が、困ったような顔をしてそう答えた。
「十って・・・。立派な大人じゃん」
「でも、カッコよかった」
女子から声が上がるなか。
「おじさんじゃんか」
って、男子が口にする。
オレは、不安になって。
「なぁ、亜耶。本当にアイツ、お前の婚約者なのか?」
隣を歩いていた亜耶に問いかけた。
「そんなんじゃないよ。ああやってからかってくるの」
亜耶が、戸惑い苦笑する。
「そうなんだ」
オレは、その言葉には納得いかなかった。
オレの憶測だとしても、あの人が亜耶の好い人には違いない。余り、顔色を変えない亜耶が戸惑ってるのなんて、初めて見たから。
「ほら、さっさと行って、勉強しよう。悠磨くんに教えて欲しい所があるんだ」
亜耶が、照れ隠しなのかオレの袖を引っ張る。
そう言う仕草が、オレのツボなんだが…、わかってるのかな。
「あぁ、わかったから、袖引っ張るな」
そう言いながら、オレは嬉しくて少し頬を緩めた。
オレは、席に着くと。
「・・・で、何処がわからないんだ?」
オレの隣に亜耶が座る。
「ここなんだけど・・・」
亜耶が、そう言って数学の教科書を広げて、指を指す。
「これは・・・」
オレは、わかりやすいように説明をする。
「あ、そっか・・・。ありがとう、悠磨くん」
その後、亜耶は問題集に取りかかっていた。
オレは、さっきの事を頭の隅に押し込め、英文を訳していた。
だが、どうしても訳しにくい箇所が出てきた。
「亜耶。これ、わかる?」
オレは、亜耶の方を向いて、覗き込むように聞く。
「どれ?」
亜耶が、思いっきり振り返るから、顔が近い。
亜耶の顔が、少し赤いが・・・。オレの事意識してくれてるのか?
それとも見間違いか?
心臓がバクバク言っているが、悟られないよう至って冷静な声で。
「亜耶?」
と呼んだ。。
「あ・・・。うん、これはねぇ・・・」
亜耶が慌てて、丁寧に教えてくれる。
「ちょっと、そこの二人、引っ付きすぎ」
斎藤が、オレ達に声をかけてきた。
「そ・・・そんな事、無いよ」
亜耶が、動揺し慌てふためいてる。
「って、亜耶ちゃん。そんなに拒否ら無くても、悠磨が落ち込むぞ」
義幸が、からかってくる。
アイツ、オレの気持ちを知ってるから一言余計に言う。
そんなこと言ったら、亜耶にバレるだろ。
ったく・・・。
そのままオレ達は、閉館するまで勉強することになった。
閉館後。
「明日のテスト。悔いの無いようにしような」
誰とも言わず声がかかる。
「男子は女子を送ってくんだぞ」
当然のようにオレは言う。
「亜耶、送っていく」
必然と、亜耶と二人になる。
「ありがとう」
亜耶の照れ隠しの笑顔。
この笑顔、好きだな。
「なぁ、昼間の人って、本当に亜耶とは、関係ないんだよな?」
オレは、再度確認するかのように頭の片隅に押し込めて気になってた事を聞く。
「うん、関係ないよ。ただのお兄ちゃんの友達だもん」
笑顔を絶やさずに言う。
それを聞いてオレは決意した。
「亜耶。オレ・・・。オレさぁ。亜耶の事・・・。好きなんだ。だから、オレと・・・」
やっと伝えられると思い言い出したら。
「亜耶ーー。迎えに来たぜ!!」
って、声が・・・。
折角のチャンスだと思って勇気を振り絞って告白してたのに・・・。
なんで、邪魔すんだよ!そう心の中で罵りながら。
「迎えが来たなら、オレはこれで・・・」
オレは、二人に背を向けて、逃げるように走り出した。
やっと、決意しての告白だったのに・・・。
とんだ、邪魔が入った。
絶対、あの人、亜耶の事想ってる。
亜耶に告白するには、あいつが入り込めない場所でしなければ・・・。
オレは、もう一度告白するチャンスを探し出すことにした。