腕時計と手紙
今日は、疲れた。 役員全員に挨拶し、終わって雅斗のところに戻ると直ぐに外回り。
一日歩き回って、久し振りに足がパンパンだ。
こんな時は、亜耶の写真を眺めて風呂でノンビリ癒すしかない。
俺は、携帯のフォルダーに入ってる亜耶の写真専用ボックスを選び、一番好きな写真を呼び出して画面を見いる。
あー、早く会いてー。
そして、この腕の中に抱き締めたいぜ、亜耶。
って、俺、変態だな。
何て思っていたら。
turrrturrrr…。
タイミング悪。
何でこんな時に掛かってくるかなぁ。
しかもさっきまで一緒に居た雅斗だし…。
はぁ…。
「もしもし…」
仕方無しに出ると。
『遥、今大丈夫か?』
何気に声が弾んでないか?
「大丈夫だが…」
『今、お前ん家の前に居るんだが、降りてこれるか?』
はっ?俺ん家って…。
『高橋先輩に早く渡したくて、来ちゃいました』
突然声が代わり、驚いてると。
『じゃあ、待ってますね』
それだけ言って切りやがった。
俺、行くともなんとも言ってねえが…。
アイツは、自分のご都合主義だからな…。
しゃあね、行くか。
俺は、携帯と鍵を手にして部屋を出た。
下に降りて行くと二人が車から降りて待っていた。
「よっ」
「先輩、お久し振りです」
沢口が、ニヤニヤした顔で俺に言う。
「…あぁ。で、俺に渡したいモノって?」
挨拶もそこそこに問いただす。
くだらない事で呼んだんじゃないだろうな。
疑心暗鬼になってると。
「これです」
沢口が、何やら包みを差し出してきた。
「俺、誕生日でもないぞ」
「違いますよ。それ、亜耶ちゃんからの預かりモノです。今日、亜耶ちゃんと買い物に行ったんですよ。で、亜耶ちゃんが、先輩に合いそうだって言って見てたのがペアウォッチだったんです。で、購入したのはいいんですが、先輩に渡せないからって、あたしが預かったんです」
沢口の説明を聞きながら、俺は包みを開けた。
…が、入っていたのは女物だ。
これはいったい…。
「沢口。これ女物…」
「はい。ペアウォッチだから出来ることですよね。だから、亜耶ちゃんが男物を持っていますよ」
淡々と言う沢口。
成る程な。
「ありがとな」
「どういたしまして」
沢口が、悪戯を成功させたような顔をする。
「後、これも…」
って、渡された封筒。
何だ?
「それは、後で見てくださいね」
意味深な言葉を投げ掛ける沢口。
「わかった」
「じゃあ、これで…」
気が済んだのか、大人しくなる沢口。
「悪かったな、急に呼び出して…」
雅斗が申し訳なさそうに言う。
どうせ、沢口に言われて断れなかったんだろ。
それぐらいわかりきってる。
「いいよ。これ、サンキュー」
「あぁ、じゃあ」
「おぅ」
そう答えると雅斗は車に乗り込んで、走らせた。
遠ざかる車を見送り、部屋に戻った。
部屋に戻り、早速封を開けた。
そこには、制服姿の亜耶の写真と手紙が入っていた。
手紙を広げると高校生らしい可愛い文字が並んでいる。
“遥さんへ
元気にしてますか?
私は元気です。直接会って、話すには気が引けるので、手紙にしました。
仕事が忙しいって、お兄ちゃんから聞いてます。体壊さないように気を付けてくださいね。
お兄ちゃんに聞いたかと思いますが、陸上競技会にリレーの選手として出ることになりました。もしよかったら、見に来てくださいね(忙しかったら、無理にとは言いません)。
それから腕時計ですが、遥さんが必要なければ、捨ててしまっても構いません(私の自己満足で送ったのですから…)。
P.S.1 あんな酷いこと言ってごめんなさい。遥さんの事傷つけてしまいましたよね。本当にごめんなさい。今度、会った時に訳を話しますね。
P.S.2 遥さんの事、大切な男性だと思ってます。 亜耶”
なんだよこれ…。
直ぐにでも返事を返したい。
…が、便箋なんて洒落たもの持ってない。
仕方がない。
俺は、携帯を手にするとメールを打ったのだった。