腕時計
由華さんに連れられてきた店は、到底私のお小遣いで買い物に出来るような店じゃなかった。怖じ気づいて、尻込みしてる私に。
「亜耶ちゃん。気にしなくていいよ、あたしの服を取りに来たんだからね」
由華さんがニッコリと笑う。
「う…うん…」
私が頷くと由華さんが、私の背中を押して中に入る。
中に入ると別世界で、色とりどりの服、小物達が出迎えてくれる。
うわー。
何これ。
一つ一つが、輝いてる。
「どうしたの?亜耶ちゃん」
入り口で立ち尽くしてる私に不思議そうに声を掛けてきた由華さん。
「綺麗…」
私が口にした言葉に由華さんが、クスクス笑ってる。
あっ…。
恥ずかしくなって、下を向く私。
「亜耶ちゃんの気持ち解るよ。あたしも初めて入った時、そう思ったもの」
由華さんが、優しい笑顔で言う。
「あたし、注文してたものを取ってくるから、亜耶ちゃんはゆっくり店内見てていいよ」
由華さんは、そう言って奥に入っていく。
私は、ゆっくりと店内を見渡した。
見るからに高価なものが並んでる。
何か、場違いな感じがしながらもゆっくりと見て回る。
あっ、これ、遥さんに似合いそう。
値段も手頃だし……。
って、買っても渡すことできない…。
あっ…う~ん。
遥さんの喜ぶ顔が見たいな。
何て考えてたら。
「亜耶ちゃん。何かいいものあった?」
由華さんが、後ろから声を掛けてきた。
両手に紙袋を抱えて……。
「あっ…いや…そのー」
言葉がままならない私にショーケースを覗き込む由華さん。
「もしかして、あの時計?」
由華さんが目敏く見つけた。
「…う…うん。遥さんに似合うだろうなって…」
そう言うと。
「そうだね。これ、ペアウォッチだね。買ったらいいじゃん」
由華さんが言う。
「だけど、渡せない…」
私の言葉に…。
「雅くんに頼めば大丈夫だよ。…で、亜耶ちゃんが男物のウォッチを着けて、先輩に女物を渡せば」
由華さんが、意味深な言葉を告げる。
何故、男物を私が…。
不思議に思っていると。
「ん。昔って言ってもあたしが高校の時だけどね。彼の時計と自分の時計を交換して着けたりしてたんだよね」
茶目っ気たっぷりで言う。
彼って…。
遥さんは、彼じゃ…。
「今、先輩は彼じゃないって思った?でも、先輩は、喜ぶと思うよ」
何て、ニコニコしながら、鋭い指摘なんでしょう。
「どうする?」
由華さんが、真顔で聞いてくるから。
「買います」
私がそう言うと由華さんも嬉しいそうな顔で店員さんを呼んだ。
ペアウォッチを購入して、女性用の方を包んで貰って、男性用のを自分の腕に着けた。
「亜耶ちゃん、似合う」
そうかなぁ?
何か、ごつくない?
「華奢な腕にそのゴツさが、いいんだよ」
由華さんが、キャッキャとはしゃいでる。
「もし、着けづらかったら、鞄とかに着けるといいよ」
由華さんが、ニコニコしながらアドバイスをしてくれた。
「こっちは、あたしが預かって、雅くんに渡してもらうように言っておくね」
由華さんが、自分の事のように喜んでるのがわかる。
「さて、お茶してから帰ろうか」
由華さんの提案で、近くのカフェに入った。