体育祭
今回も悠磨君目線です。
誰にでも親切で、分け隔てなく接する態度。
それに、女の子なのに頼りになる。
頭の回転も早い。
となれば、言うこと無しだ。
そんな時だった。
体育祭の最中。
「亜耶」
オレと亜耶が、グランドの隅で雑用をこなしてるときだ。
亜耶に、一人の男の人が近付いてきた。
何、こいつ?
メチャ、カッコいいんだが・・・。
男から見てもそう思う。
「お兄ちゃん」
エッ・・・、お兄ちゃん。
この人が?
オレは、取りあえず会釈する。
「見に来てくれたんだ」
亜耶の嬉しそうな声。
「あぁ。亜耶に誘われたら断れないよ」
って・・・。
「ねぇ、お兄ちゃん。飛び入りで百メートル走でない?」
亜耶が言う。
うちの学校は飛び入り参加OKだから、亜耶が言ってるのだろ。
「俺、運動する恰好で来てないんだが?」
チラリと見ると確かにTシャツにチノパン、スニーカーって、物凄くラフな格好なのに決まってるんだけど・・・。
「大丈夫だって、お兄ちゃんなら。だからお願い」
亜耶が、お兄さんの袖を引っ張って甘えた声をだす。
こんな亜耶、見たことない。
「わかった。一人道連れにするが、いいか?」
何やら、亜耶に意味ありげに言うお兄さん。
亜耶は、少し考えてわかったみたいで。
「いいよ。頑張ってね。って、遥さんにも言っておいて」
亜耶が、笑顔で言ってる。
はるかって誰だ?
女の人か?
『百メートル走に飛び入り参加される方は、入場門に集まってください』
と放送が入った。
「じゃあな。あいつ見つけて、入場門に行くわ」
お兄さんが、一瞬だけオレに会釈してくれた。
オレが聞いてたのバレてる。
「悠磨くん。一緒に百メートル走見よ。面白いことになるよ」
亜耶がニコニコ顔で、オレの体操服の裾を引っ張る。
それからオレたちは、百メートル走のゴール前の位置に移動した。
『百メートル走選手の入場です』
アナウンスの元に一般父兄が入場してきた。
足に自信のある親や兄弟達が、入り交じっててる。
その中に亜耶のお兄さんの姿を見つけた。
その横に、もう一人のイケメンが・・・。
その人の格好も運動するには動きにくそうな格好だが、亜耶の一言で出ることになったんだろうと思われる。
二人は、同じスタートラインに立ってる。
一体、これから何が起きるんだ?
オレは、成り行きを見守ることにした。
いざスタートすると、イケメン二人が抜きでて競ってる。
エッ・・・。
何?
なんで、こんなに速いんだ。
「お兄ちゃん、遥さん。頑張れ!!」
隣に居る亜耶が、大きな声で声援を送ってる。
遥さんって、お兄さんの横で走ってる人の事か?
疑問に思いながら、二人を見て、周りを改めてみる。
亜耶だけじゃない。
周りも、二人を応援してる。
たった、一瞬の勝負なのに。
こんなにも白熱するものなのか?
結果は、亜耶のお兄さんの勝ちだった。
周りが、歓声に湧く。
近くに居た女子達が、"カッコいい"とか"右の人がいい"とか言い合ってるのが聞こえてくる中。
「やっぱり、お兄ちゃん、カッコいい!!」
亜耶が、飛び跳ねて叫んでる。
亜耶を振り向かせるには、あの人より上にいかねばと思わされた瞬間だった。
家に帰ると。
「やっぱり、鞠山さんとこの兄妹は凄いわね」
母の声が聞こえてきた。
「凄いって?」
オレは、リビングに行き母に聞き返した。
「悠磨、帰ってたの?」
驚いた顔をする母に。
「ねぇ。凄いって、どういう風に?」
オレは、母に食いついた。
「あそこの兄妹ね。勉強は、もちろんだけど、運動も出来るって、前から言われてたのよ。よく町内の運動会に引っ張り出されてたから・・・」
母が言う。
オレは、町内会の運動会には出たことがない。
面倒臭かったから・・・。
「運動会に行くと彼のファンが、集まって応援してるしね。それに有名大学を一発で合格するほど、頭が良いって言われてる」
自分の事のように語る母。
それって、オレにとっては、ハードルが高いんじゃ・・・。
「妹の亜耶ちゃんも、負けじと運動能力高いんだよね。小学校の時、よくリレーのアンカーを任されてて、男の子を抜いて、一位をとってたのよ」
なんで、母はこうも鞠山家の事に詳しいんだ?
「それにしても、母さんはなんで鞠山さんの事、そんなに知ってるんだよ?」
オレは、疑問に思ったことを口にした。
「何でって、母親同士の交流で、流れてくるからね」
それって、筒抜けってことじゃ・・・。
「まぁ、亜耶ちゃんの事を狙ってるなら、頑張りなさいよ。お母さん、応援してるからね」
って、母が余計な一言を言う。
「そんなんじゃない!」
オレは、つい怒鳴ってしまった。
それを見て母が、クスクス笑っていた。
結局、オレは、亜耶の事その時点で、何も知らなかったんだと思い知らされたけだった。