モヤ
カラオケで散々楽しんだ後、近くのファミレスに雪崩れ込んだ。
席順は、互いの彼女を向かい合わせに座る形で。
夕飯にはまだ早く、ソフトドリンクとデザートを頼む。
「悠磨」
「ん?」
「お前、相変わらずモテるのか?」
義之が聞いてきた。
相変わらずって…。
「さぁ?」
そんなの自分でわかるわけ無いだろ。
「じゃあ、亜耶ちゃんの方は?」
順一が聞いてくる。
「う~ん。まだ、入学して一ヶ月だから、そこまで聞いたこと無いな」
オレは、そう言って亜耶の方に目線を向けた。
確かに亜耶は、入学式の時に色々言われてたけど……。それも一週間過ぎたら消えてたし…。
そんなオレの返答に納得がいかない顔をする二人。
まぁ、クラス離れてしまった分、余りお互いの噂聞かないからなぁ……。
「悠磨。お前、陸上部だよな。また、競えるな」
順一が言う。
淳一とは、種目が一緒だ。
「悠磨くん。陸上続けてるんだ」
オレ達の会話を聞いてたのか、水口が割って入ってきた。
「えっ、あぁ。元々続けるつもりで居たから…」
オレの言葉に。
「悠磨くんが、走ってる時、メチャカッコいいもん」
斎藤も話に入ってきた。
カッコいい?
オレは、亜耶を見る。
亜耶も同意するように、軽く頷いた。
そっか…。
そう思ってくれてるんだ。陸上、続けてよかった。
気持ちが浮上する。
「義之は、バレー続けてるのか?」
オレは、気になって聞けば。
「義くん、バレーからバスケに変更したんだよ」
ニコニコしながら、水口が言う。
ほう。
また、何でバスケに?
オレは、視線を義之に向けた。
「姫が、バスケだから?」
義之が、言いにくそうに言う。
何故、疑問符?
「少しでも長く一緒に居たいじゃん、だから…」
義之が顔を少し赤め照れたよう言う。
オ~。珍しいもんが見れた。
こいつ、滅多に照れなんだがな。
まぁ、こいつの気持ち解らんでもないがな。
「そう言う悠磨達だって、同じ部活なんだろ?」
「まぁ、な。オレは選手だけど、亜耶はマネージャーだよ」
「そっちの方が、何かと絡みがあるんじゃないのか?」
「そう思う?…が、全然絡み無し。亜耶、メチャ忙しそうに動いてるからさぁ、それに今回の大会、女子部の人数足りてなくて、リレーにだけ駆り出されてるから」
もしかしたら、このまま選手に変更されそうだし…。
「それ、メチャ注目浴びるんじゃないのか?」
順一が、心配そうにオレに言う。
そうかも…。
「亜耶、さっきから携帯鳴ってる」
斎藤が亜耶にそう言ってるのが聞こえた。
「…あっ」
亜耶が、慌てて鞄を探ってる。
携帯を手にした亜耶が。
「ちょっと、外すね」
席を立って、店の外に出ていった。
「何か、亜耶嬉しそうだった」
水口が、怪訝そうな顔をしてオレを見る。
アハハ…。空笑いするしかない。
だって、浮き足立ってるのが見てとれる。
そう言えば、お兄さんと夕飯を食べるとか言ってたなぁ……。
オレが迎えに行った時にそんなやり取りしてたのを思い出した。
何て思ってたら。
「ごめん。私、この後用事があるから、先に帰るね」
戻って来た早々自分の鞄を掴み、財布を取り出し自分の分の代金をテーブルに置いた。
「じゃあ、また遊ぼうね」
足取り軽く外に出て行く亜耶。
そんなに嬉しい?
お兄さんに会えることが…。
亜耶のブラコンは、誰も知らないからなぁ……。
ハァー。
「ねぇ、あんな亜耶。久し振りに見た」
水口が、呆然と亜耶の背中を見送ってから、そう言う。
「うん。あんな浮かれた顔を見たの何時振り?」
斎藤までが、そんな言葉を告げた。
「悠磨、負けてるじゃん」
淳一と義之が憐れな顔でオレを見る。
「うるさいよ」
そんな顔させるつもり無かったんだが。
「亜耶も帰っちゃったし、お開きにしようか」
斎藤が言うから。
「そうだな」
皆が納得して席を立ち、各々会計を済まして、解散となった。
オレの気持ち、亜耶にちゃんと届いてるんだろうか?
と思ってしまう。
ホント、情けないよな。
オレ、亜耶を引き止めること出来ないのか……。
ハァー。
深い溜め息が、宵闇の中に消えていった。