報告
会社に戻ると、直ぐに社長室に向かった。
社長室のドアをノックする。
「はい」
返事を聞いて、中に入る。
「失礼します」
俺は、それだけ言って、姉が座る机に向かう。
「どうしたの?遥」
姉が、不思議そうな顔を向けてきた。
「ちょっとね」
俺は、どう伝えようかと考えてた。
「遥の好きにすればいいよ」
思ってみなかった言葉が返ってきた。
「へっ…」
間抜けな声しか出せなかった。
「遥の好きにしていいよ。約半年間の間に遥がどれだけ頑張って会社を持ち直してくれたか、わかってるから…。これからは、自分の思う通りにしていいよ」
って、姉さんが真顔で言う。
「じゃあ……」
「亜耶ちゃんの為に今まで頑張ってきたんでしょ?だったら、向こうに行って、もっと認められるよう頑張りなさい」
笑顔で言う多香子姉さん。
「本当にいいの?」
俺は、確認のために聞き返す。
「まぁ、遥が抜けた部分を補うのは容易じゃないと思うけど、なんとかなるでしょう」
何処か寂しそうな顔をする。
「俺、明日から鞠山財閥の雅斗の付き人を命じられてるから、今日中に今受け持っている仕事の引き継ぎを済ませて行くな」
俺の決意に姉さんも頷いた。
「後任は隼人が適任だと思う。直ぐに遥の部屋に向かわせるわ」
姉さんが、受話器を手にして内線を繋いだ。
そして、俺に片手で出ていけと言わんばかりの素振りを見せた。
俺は、それにしたがい部屋を出た。
フ~。
廊下に出ると息をついた。
姉さんには、お見通しだったみたいだ。
一つずつ厄介なことが片付いていく。
その度に亜耶へとの距離が近付いてきてるように感じる。
俺は、自分に与えられた部屋に戻り、隼人兄さんが来るまで必要最低限の資料を揃え、準備した。
滞りなく引き継ぎを済ますと。
「お前、本当に鞠山財閥にヘッドハンティングされたんか?」
隼人兄さんが、疑わしめな瞳を俺に向けてきた。
「そうだよ。会長直々にされた」
俺がそう答えると。
ハァー。
深い溜め息が聞こえてきた。
「そっか…。遥がなぁ…。まぁ、お前は、家の中じゃ一番自由人だったもんな。何も縛られることなく育って、尚且つ一番優秀なんだ。羨ましいぜ」
隼人兄さんが、毒つく。
確かに何も縛られなかった。
「俺さ。小学校の時から反発しまくってたじゃん。それが、高校に入って雅斗と知り合って、その妹の亜耶に会ってから、がらりと変われたんだ。彼女が居たから、変わることが出来たんだって、今なら断言できるよ」
俺は、彼女に出会った頃を思い出した。
「そっか…。まぁ、仕事の方は、全部俺が引き受けるから、お前は何も心配するな。新しい仕事頑張れ」
それだけ言うと隼人兄さんは、部屋からでていった。
隼人兄さんに応援されるとは、思っていなかった。
けど、この約五ヶ月間、凄く充実してた気がする。
気が付いたら、のめり込んでいたんだから…。
さぁ、机の上を片付けないとな。
俺は、自分が使っていた机の上、中のものを片付け始めた。