対面
雅斗の運転で、鞠山財閥本社に到着。
「お爺様は、部屋で待ってるから…」
「ちょっと待て。それって、俺だけで会えってことか?」
俺の疑問に。
「あぁ。お爺様は、お前と直接会って決めたいんだそうだ。それに俺、これから会議があるしな」
真顔で答える雅斗。
マジか…。
会議じゃしょうがないか…。
「…と言うことで、これ渡しておくな。重役しか入れない場所だから、これが無いと行けないから…」
渡されたのは、セキュリティロック解錠用のカードキー。
「それ、遥専用だから、無くすなよ。じゃあ、検討を祈る」
雅斗は、それだけ言うとさっさと行ってしまった。
ハァー。
気が重いが、行くか…。
エレベーターに乗り込んだ。
最上階に昇るためのキー。
しかも俺専用って……。
期待していいのか?
そんなことを考えてたら。
『これより上に向かうには解除キーの挿入をお願いします』
と音声案内が流れる。
あぁ、雅斗から貰ったカードキーか…。
俺は、言われた通りにカードキーを差し込んだ。
すると、停まっていたエレベーターが動き出した。
最上階に着き、カードを抜き取り廊下に出た。
部屋の扉には、それぞれの役職のプレイートが掲げてある。その中でも一番重厚な戸の前に立つ。
俺は、大きく深呼吸する。
そして、戸をノックした。
「誰だ?」
戸の向こうから、重圧がある低い声が聞こえる。
「高橋遥です。会長がお呼びだと雅斗さんから伝え聞いて、来ました」
緊張からか声、震えてないか俺。
情けない。
そう思いながら、苦笑する。
「入れ」
何か、怒ってないか?
俺、悪いことしたか?
そう思いながら、戸を開けて。
「失礼します」
一礼をする。
緊張感半端無い。
顔を上げるとそこには、穏やかな顔をした御大の姿があった。
エッ…。
驚きを隠せない俺。
「遥くん。取り合えず、こちらに来て座りなさい」
戸の前で突っ立ていた俺に御大は、笑顔で言った。
困惑しながらも俺は、勧められた黒皮張りのソファーに腰を下ろした。
「遥くん。此度の無理をよくこなした。それを踏まえて、君に新たな試練を与えたい」
真顔で言ってくる。
「試練……ですか?」
俺の間抜けな声が溢れた。
「そうだ。それをクリアしたら、晴れて亜耶との婚約を認めよう」
それって、俺に有利なのか?
「どうだ。君は、亜耶の事諦めるのか?」
亜耶を諦める。
そんなこと、出来るわけ無い。
だが、試練の内容を聞いてからでもいいんじゃないかと思った。
「試練とは、何ですか?」
俺の声が、普段よりも一層低くなってるのがわかる。
「遥くんが、うちの社員になって、三ヶ月の海外研修を終えてくること。その間、亜耶と会うことも禁止だ」
三ヶ月も、亜耶と会えないのか…。
海外だと、街で偶然彼女を見かけることもなくなる。
でも、それを終えれば、亜耶と堂々と会えるし、婚約も出来る。
だったら、答えはひとつしかない。
「わかりました。それ、受けます」
俺は、その試練を受ける事を承諾した。
「遥くんなら、そう言うと思ったよ。色々と準備が必要だろ?来月からの海外研修、宜しく頼むな」
にこやかな笑顔を向けてくる御大に。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
俺も笑顔で、そう口にした。
「取り敢えずは、雅斗の付き人として、明日から働いてくれな」
全く急な話だが、俺は頷いた。
その後、少しの世間話をして部屋を後にした。