初めての練習
放課後。
「ちょっと待って」
龍哉君が、帰ろうとしてるクラスの人達の足を止めた。
「何だよ、龍哉」
クラスの皆が嫌そうな顔をするが。
「ん?今度、球技大会があって、メンバーを決めてしまいたいんだよ」
の一言で、席に着く皆。
「亜耶ちゃん」
龍哉君の声で、私も前に行き黒板に書き出した。
球技大会、四種目と人数を書いて、バスケの欄には龍哉君の名前をテニスには自分の名前をバレーには梨花の名前をそれからサッカーには、林元君の名前を書いた。
「で、今黒板に名前が書かれてるのは、俺たちが独断で決めたキャプテンな」
「ちょっと、待って。亜耶ちゃんや龍哉がキャプテンを務めるのは良いけど、何で俺なの?」
って、声をあげた林元君。
「ん?あぁ。お前、中学の時サッカー部のキャプテンだたんだろ。それに人望も厚いし。このクラスの事把握してるお前なら出来るよ」
よく見てるなぁ、龍哉くん。
林元君、サッカー部だったんだ。
「わかったよ。引き受ける」
渋々ではあったが、誉められたのが嬉しかったみたい。
「で、この中で出たい種目に手を挙げろよ。順番に言うからな」
龍哉くん、本当に仕切るの上手いな。
私は、手が挙がる度に黒板に名前を書いていった。
「よし、決まったな。手間取らせて悪かった。解散な」
龍哉くんの言葉にゾロゾロと教室を出ていく。
「亜耶ちゃんも部活有るんだろ?後はやっておくから行っていいよ」
どこまでも優しい龍哉くん。
「悪いから、最後までやるよ」
「そっ…。じゃあ、お願い」
それから、黒板に書いたメンバーを用紙に書き写した。
「書き終わった?」
龍哉くんが、手元を覗き込んでくる。
「後、少し」
私は、淡々と書き進めた。
「よし、書けた」
「用紙を出すのは明日でも良いだろうから、黒板を消したら部活行こう」
「うん」
二人で黒板を消して、それぞれの部活に向かった。
今日からマネージャーの仕事じゃなくて、リレーの選手としての参加となる。
他の選手の足を引っ張らなきゃ良いけど…。
走るのが嫌いって訳じゃないけど…ね。
「鞠山さん、遅いよ」
グランドに出るとそう言われて。
「すみません」
頭を下げた。
「アップ、終わったら声を掛けて。タイム録るから」
「はい」
田代先輩がそう言い残し、他の選手に声を掛けにいく。
私は、柔軟をして身体を徐々に解していく。
怪我したくないしね。
身体が程よく温まったところに。
「田代先輩。準備できました」
と声を掛けた。
一人で走るってもタイムも上がらないだろうからって、先輩が同学年の子を付けてくれた。
「宜しくお願いします。岡本さん」
「エッ…。あっ、こちらこそお願いします。鞠山さん」
にっこり微笑む彼女に私も笑顔で返した。
二人でスタートラインに並んで、準備する。
「位置について」
この緊張感が好き。
「よーい」
ピッ…。
笛の音と同時に走り出した。
風になれる瞬間。
ほんの数秒間だけど、風を感じが妙にワクワクさせる。
大好きな時間。
自分との戦い。
他の事なんて気にならない。
ただ、無心に走り抜けた。
「えっ…えーーー!」
先輩の雄叫び。
ん?
何?
「鞠山さん。マネージャー辞めて、選手にならない?」
田代先輩が、私の前に来たと思ったら、両肩を持ってユサユサと揺する。
ガクガクと頭が揺れ、目が回る。
「先輩。…気持ち…悪い…です」
私の言葉に。
「えっ、あっごめん」
って、慌てて手を放してくれた。
頭がクラクラする。
「まぁ、取り合えず。大会まで宜しくね」
先輩が、笑顔で言うから。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
って、答えていた。
亜耶のタイムは、ご想像にお任せします。




