水族館デート①…亜耶編
今日は、悠磨くんと久し振りのデート。
昨日、帰ってきてからデート服を選んでおいたから、着替えるだけ。
「亜耶、起きてる?朝御飯食べなさいよ」
下から、お母さんの声。
「はーい」
私は、部屋を出てダイニングに行く。
テーブルの上には、トーストとサラダ、スクランブルエッグが、準備させれていた。
「あれ?お父さんは?」
私が訪ねると。
「お仕事に行ったわよ」
って、何でもないように言うお母さん。
仕事、忙しいって言ってたもんね。
自分の席に着くと手を合わせて。
「頂きます」
って言い、一口トーストをかじった。
基本、食事中はお喋り禁止。
理由は、行儀が悪いからなんだけど…。
例外はある。
「亜耶。今日は、何かあるの?」
って、お母さんが聞いてきた。
「んへっ…」
変な声が出ちゃった。
「ウキウキしてるから、何かあるのかなって…。違った?」
ウキウキ…してるかなぁ。
まぁ、悠磨くんとデートだし…行き先も水族館だから…?
「悠磨くんとデートだから…かな」
私は、そう口した。
「そ…そう。悠磨くんと…。楽しんでおいでね」
って、何故か、悲しい顔をするお母さん。
何で、そんな顔をするの?
そう思いながら、朝食を食べ終えて、準備に取りかかった。
薄黄緑のTシャツに白の膝丈スカート。水色のカーデガンを身に纏った。
髪は、毛先だけを巻いて、ハーフアップにした。
少しだけ、お化粧を施した(由華さんに教えてもらった)。
後は、鞄にお財布と携帯を入れて、準備万端。
その時。
ピンポーン。
家のチャイムが鳴った。
悠磨くんかな?
私は、部屋を出て階段を降りる。
「亜耶。悠磨くんが来たわよ」
階段を降りきったところでお母さんが、声を掛けてきた。
「うん。わかった」
そう返事をして、玄関に出しておいた白のミュールを履く。
玄関を出ると悠磨くんの緊張した顔が出迎えてくれる。
そんな彼に。
「おはよう」
って、笑顔で言う。
一瞬驚いた顔をした彼だったが、直ぐに元に戻り。
「おはよう。じゃあ、行こうか」
って、笑顔が返ってきた。
「うん。行ってきます」
お母さんに向かって、そう言った。
駅に向かいながら、何時ものように手を繋いだ。
連休初日だから、何時もより人が多い感じがする。
今日の悠磨くん、何時もと違う。
なんか、頼りがいのある男の人って感じ(何時も頼りがいあるけど…)ちょっと違う感じ。
大人っぽいって言うか…何て言うか…。
うーん、ちょっとした仕草が、何時もと違って、ドキッてする。
何か、考えてるっぽい彼に。
「悠磨くん。どうかした?」
声をかけてみた。
「…ん。どうもしないよ」
って、微笑んでるけど、どこか浮かない顔をしてる。
「悠磨くん。ボーとして、どうしたの?らしくないよ」
本当にどうしたんだろう?
「そうか…」
ぎこちなく答える彼が、心配になる。
何か、気がかりなことでもあるのかなぁ?
何て思いながら、彼の隣を歩いていた。
最寄り駅に着くと家族連れやカップルが多く、ごった返していた。
凄い人。
何て思いながら、悠磨くんに手を引かれて歩く。
チケットブースでチケットを購入して中に入る。
入って直ぐにイルカショーの案内があった。
「悠磨くん。イルカショーやるって。見たいんだけど、良い?」
私は、少し背が伸びた彼を見上げて聞く。
「良いよ。亜耶が見たいって言うなら…。時間まで他の水槽を見て回ろう」
そう言って、私の手をギュって握りしめた。
大きな水槽の中を色とりどりの魚達が悠々と泳いでいた。
あっ、ナポレオンフィッシュ、エイもいる。
何て、胸を踊らせながら騒ぐ私。
それから、他の水槽を見ているとフと気になるものを見つけた。
それが、鯨の骨の標本。
そういえば、前に遥さんに連れてきてもらったときにもあったなぁ。
あの時は、小学生だったからそれほど感動もなかったけど…。
今思うとここまで、綺麗に展示されてるのって珍しいよね。
「ねぇ、悠磨くん。鯨の骨の標本だって」
私は、悠磨くんの手を軽く引っ張った。
「見ていくか?」
悠磨くんの言葉に嬉しくて頷いた。
遥さんのあの時興奮して、私に一生懸命説明してくれてたなぁ。
あんな無邪気な笑顔って、あの時が初めてだったような気がする。
私よりも子供っぽいって、思ったんだよね。
思い出したら、口許が緩んできた。
って、さっきから遥さんの事ばかり思い出してる。
今は、悠磨くんと居るのに……。
「凄いね」
私は、意識を悠磨くんに戻して、そう口にした。
「確かに…な」
私の言葉に悠磨くんも同意する言葉が返ってきた。
ごめんね、悠磨くん。
今は、遥さんとの思い出に浸っていたいかな。
暫く、ボーゼンと標本みいっていた。
「亜耶、ソロソロ時間」
悠磨くんのことばに我に返り。
「…えっ、本当だ」
浸りすぎたと反省しつつ。
「じゃあ、行こうか」
悠磨くんに連れられ、イルカショーが行われるプールに移動した。