囁き声
春休み中は、殆ど毎日のように悠磨くんと会った。
課題をこなすために…。
旅行は、それなりに楽しめた。夜は、女子三人で恋話なんかして過ごした。
短い休みが過ぎて、入学式。
真新しい制服を身に纏い、悠磨くんと待ち合わせの場所に急いだ。
「おはよう、悠磨くん」
私は、悠磨くんに駆け寄りながら言う。
ブレザー姿の悠磨くんを見馴れてないせいか、見いってしまっていた。
「おはよう、亜耶」
悠磨くんの笑顔が眩しい。
「制服、似合ってるよ」
って、悠磨くんが呟くように言うから、俯いてしまった。
だって、自分じゃあ、着せられてる感が凄くあって、正直合ってないって思ってる。
「悠磨くんこそ、凄く似合うよ」
悠磨くんのクールさを更に引き出してる感じがする。
「ありがとう」
悠磨くんが、口許を手で隠してそう言う。
これは、悠磨くんが照れてるときにする仕草だ。
「悠磨くん」
「ん?」
「同じクラスになれるといいね」
私は、そう口にしていた。
うちの学校からは、二人だけだから、ちょっと不安だったりする。
「ほんと、同じクラスになれたら、最高だよな」
悠磨くんが、真顔で言う。
ほんと、悠磨くんが同じくラスだったら、心強いんだけど…なぁ。
こればかりは、わからないもん。
校門を潜り抜け、掲示板の方に足を向ける。
そこには、人垣が出来ていてなかなか近付けないでいた。
う~ん。見えない。
どうしたものだろう?
って思っていたら、確認を終えた子たちがゾロゾロと移動していった。
その隙を縫って掲示板に近づく。
クラスを確認する。
E組か……。
悠磨くんは…、B組だ。
「あ~あ。クラス離れちゃったね」
私は、落胆した。
だって、凄く不安だもん。
何がって…。
悠磨くんが、とられそうで……。
誰にでも優しいから……。
「仕方ないって。オレ、亜耶のクラスに遊びに行くよ」
悠磨くんが、仕方ないなって顔をして、私の頭にポンって軽く手を載せてきた。
それだけで、さっきの不安が軽くなるんだから、不思議だよね。
「うん!」
私は、そう頷いていた。
「ほら、教室に行くぞ」
って、悠磨くんと手を繋いで靴箱に向かった。
悠磨くんにクラスまで送ってもらって、中に入る。
席が決まっていて、私は指定された席に座った。
何故だか、皆が私の方をチラチラと見てくる。
?
何?
私、初日から何かした?
悠磨くんと登校してきたから?
まぁ、悠磨くんは格好いいしね。
見られてたなら、それしか思い当たらないんだけど…ね。
なんか、教室に居づらいんだけどね。
私が視線を下げてると。
「鞠山亜耶ちゃんだよね。私、梨花。相沢梨花って言うの。宜しくね」
って、ブラウン系の肩まで伸びた髪を緩めのウエーブを掛けて、クリクリの目で私に笑顔で言う。
「えっ…、あっ、うん、宜しく。梨花ちゃんって呼んでもいい?」
私は、笑顔を浮かべて聞いた。
「うん。私は、亜耶ちゃんって呼ぶね」
人懐っこい笑顔で言われて、頷いた。
「龍哉~!!」
梨花ちゃんが、突然叫んだかと思ったら、呼ばれた本人が。
「何だよ」
って、気だるそうに返事をしてこっちに来る。
短髪の黒髪で、整った顔立ち、耳にはピアスが光ってる。
見た目からして、チャラそうだが……。
「こいつ、私の彼で河合龍哉って言うの」
梨花ちゃんが、照れ臭そうに彼の腕を掴んで言う。
「鞠山亜耶です。宜しくね」
私は、挨拶をした。
「一年間、宜しくな」
って、龍哉君に笑顔で返された。
「おーい。席に着け」
担任らしき先生が、教壇に立っていた。
入学式を行うために移動する。
会場に入ると温かな拍手が出迎えてくれた。
あぁ、今日から高校生なんだなぁーって実感が湧いてきた。
今回は、大役もないし、気楽に出来るや。
…が、何とも言えぬ言葉が耳にはいってきた。
“今、新入生代表の挨拶してる奴、金で手に入れたらしいぞ”
って言葉が聞こえてきた。
ふーん、そうなんだ。
まぁ、私には関係ないし……。
って思ってたんだけど…。
“最初に決まってたのって?”
“鞠山亜耶って言う、女子だったんだと…”
って、言葉で声の方を向いた。
エッ…私?
まさか…ねぇ?
でも、それで何となく納得いったかな。
クラスの皆が、私をチラチラ見てたわけが。
ハァ…。
なんか、逆に目立ってる気がするのは、私の気のせいかなぁ…。
式が終わり、教室に移動。何となく、彼が居るような気がして探してしまう自分が嫌になる。
来てるわけ無いよね。
教えてないし…。
諦めていたはずなのに…。
私の目の隅に彼の姿が映り込んだ。
エッ…うそ…でしょ。
何で居るの?
驚きを隠せないでいる私に。
『おめでとう、亜耶』
って、口をゆっくり動かす彼。
ヤバイ。
嬉しい…。
素直にそう思えた。
教室に戻ると簡単な自己紹介とクラス委員を決めることになった。
「クラス委員は、俺の独断で河合と鞠山にやってもらう。異議のある者はいるか?」
担任の言葉に誰も反論がないらしく、さっさと決まってしまった。
「…っと言うことで、二人とも宜しくな」
「「はい」」
って、返事をするしかなかった。
また、クラス委員か…。
絶対、付いて回ってくるな。
「今日は、これで解散だな」
担任がそれだけ言うと教室を出ていった。
「亜耶ちゃん。まぁ、改めて宜しく頼むな」
龍哉君が、言ってきた。
「うん。こちらこそ宜しくね、龍哉君。じゃあ、私はこれで」
そう言って、鞄を持つと教室を出て、悠磨くんのクラスに急ぎ足で向かった。
悠磨くんのクラスに辿り着いたが、まだ終わっていなくて廊下の壁に寄り掛かって、終わるのを待った。
担任の先生が出てきたので、教室を覗き込んだ。
「悠磨くん」
って声をかける。
すると。
「亜耶!」
って、笑顔で私に所に来てくれたんだ。
「帰ろう」
悠磨くんが、手を繋いできた。
私は戸惑いながら、それを受け入れていた。
帰り道。
お互いのクラスの話をしながら、帰った。