俺って、何気に一途
場所は変わって、披露宴会場。
一体、何人の招待客がいるんだ?
一番広い部屋だってのは、わかる。
入り口から、主役席まで結構な距離がある。
“鞠山財閥”ってだけで此処までとは……。
まあ、沢口もお嬢だから、仕方ないのか。
そう思いながら、自分の席に着く。
「よっ。久し振りだな、高橋」
俺の右横に座る奴がいた。
俺は、視線だけを寄越して。
「あぁ。本当に久し振りだな、野中」
そう答えた。
こいつは、高校からの付き合い。
生徒会も一緒にやった仲だ。
あの時は、会長が雅斗で俺が副会長、こいつが書記だったか?
何て、昔を思い出してる場合じゃない。
亜耶は、どこだ?
俺は、会場内を視線をさ迷わせる。
「そういや、お前、まだフリーなのか?」
野中が、聞いてきた。
「今のところは、な」
俺は、亜耶を探すのに必死で、それだけを口にした。
「じゃあ、俺の彼女の友達紹介するぜ。そいつ、お前の事どこかで見て、知り合いだって言ったら、紹介して欲しいって、ずっと言われててさぁ。一度会ってくれないか?」
何だ?
って言うか、そんなの知らん。
「会う気無い。余計なお世話だ。俺は、彼女しか求めてないし……」
俺は、野中を睨み付けた。
「ちょ…高橋、怖いからやめろ」
と、タジログ奴ほっといて、亜耶探しを再開。
おっ、いた。
後ろ姿だが……。
御大と父親に守られるように座ってる。
それも仕方ないのか……。
会社絡みの人達も居るから、二人の間で守る必要があるのか……。
もし、婚約解消されてなかったら、俺があそこにいれたのかも……。
したら、変な虫も寄り付かなかったんだろうなぁ……。
そんなことを想っていた。
「おい、高橋。話、聞いてるか?」
野中が、俺の耳を引っ張る。
「悪いな。聞いてなかった」
俺は、悪いとは思ってなかったが、そう口にしてた。
「だから、お前の想い人って…さぁ」
訝しげに聞いてきた。
「ん?」
「ほら、お前、高校の時から言ってただろ?その後どうなったんだろうって…思ってな」
あぁ……。
そういや言った覚えあるなぁ……。
よく覚えてたな。今、詮索されるとちょっと辛いが…。
「俺、想い人とは今距離を置かれてる。凄く可愛いから、変な奴にかっさわれないか、心配なんだよ(すでに奪われてるが…な)」
今日は、特に注目を集めるだろうが……。
この会場にいるってことは、言えないが……。
「ふ~ん。遊び相手の女でも紹介しようか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
こいつ、下品になったな。
「それも要らない。俺、今忙しいから、相手してられない」
そんなことが、御大に知れたら余計に亜耶に近づけないだろうが……。
「寂しい奴だな」
「何とでも言え」
俺は、心の中で亜耶がこっちを見てくれるように願っていた。
「招待客のお前を狙ってる女どもが、こっちを見てるって言うのに……」
野中の呟きが俺の耳に届く。
ん?
「イヤ、さっきから、お前の事をチラチラ見てるお嬢様方の視線が、あっちこっちから…な」
野中が、苦笑を浮かべる。
ハハハ……。
マジか……。
外見しか見てないお嬢様には、興味ないけど。
俺は、亜揶の事が気になって仕方ない。
他の奴なんて、目には入るはずもない。
俺の中じゃ、亜耶が一番なんだから…。
会社関係の人達も席に着きだした。
そして、御大の隣に座る亜耶の事で、話が持ちきりだった。
「あそこの少女が、会長のお気に入りの孫娘か?」
「可愛いだけだろ」
「それが、違うらしいぞ。成績優秀な才女だそうだ」
あぁ、確かに亜耶は頭も良い、それだけじゃない。
運動神経も良い、気配りのできる女のか子だ。
「彼女を手に入れれば、鞠山財閥の恩恵に預かれるんじゃないか?」
何て声が、あちらこちらで上がっていた。
やめろ。
亜耶は、会社の道具じゃない!
そういう子じゃないんだよ。
そう、大きい声で言いたい。
だが、今の俺にはそれができない。
なんと言うもどかしさ。
イライラとモヤモヤが入り交じる。
披露宴も滞りなく進んでいく。
俺のスピーチも無難に終わる。
両親への手紙を沢口が、朗読してる。
その間も俺は、亜耶から目を放さなかった。
今、この一瞬一瞬を目に焼き付けておきたかった。
大好きな亜耶の笑顔を片隅に焼き付けるために……。
「なぁ、高橋。お前の想い人って、あそこの少女なのか?」
唐突に野中が聞いてきた。
「まぁな」
俺は、短く答えた。
確信を突かれたからには、否定するつもりもない。
黙ってる方が、可笑しいと思い肯定した。
「確かに美少女だな。…で、何年越しの片想い?」
何年か…。
「8年…、9年目か…」
「長いな」
野中の憐れんだ目が俺に向けられる。
そんな目で見なくても……。
これでも、一時期婚約してたんだとは、口が割けても言えない。
「敵が多いかもしれないが、まぁ頑張れ」
他人事のように言う奴だが、応援してくれてることはわかった。
「…ありがとな」
俺は、そう返していた。
披露宴も無事に終わり、最後にもう一度亜耶の姿を見ようとした。
…が、人並みが凄くてなかなか見つけられずにいた。
俺は、少し離れたスペースで、ゆっくりと辺りを見渡す。
居た。
距離はあったが、少しの間彼女の事を見つめていた。
亜耶。
絶対にもう一度お前の傍に行くから。
だから、誰のものにもならないでくれよ。
お前を迎えに行くから、それまで待っててくれ。
今の俺の内にある、切なる想い。
誰にも気付かれることない思いを抱え込んだ。