表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/132

俺って、何気に一途

場所は変わって、披露宴会場。


一体、何人の招待客がいるんだ?

一番広い部屋だってのは、わかる。

入り口から、主役席まで結構な距離がある。

“鞠山財閥”ってだけで此処までとは……。

まあ、沢口もお嬢だから、仕方ないのか。

そう思いながら、自分の席に着く。


「よっ。久し振りだな、高橋」

俺の右横に座る奴がいた。

俺は、視線だけを寄越して。

「あぁ。本当に久し振りだな、野中」

そう答えた。

こいつは、高校からの付き合い。

生徒会も一緒にやった仲だ。

あの時は、会長が雅斗で俺が副会長、こいつが書記だったか?

何て、昔を思い出してる場合じゃない。

亜耶は、どこだ?

俺は、会場内を視線をさ迷わせる。

「そういや、お前、まだフリーなのか?」

野中が、聞いてきた。

「今のところは、な」

俺は、亜耶を探すのに必死で、それだけを口にした。

「じゃあ、俺の彼女の友達紹介するぜ。そいつ、お前の事どこかで見て、知り合いだって言ったら、紹介して欲しいって、ずっと言われててさぁ。一度会ってくれないか?」

何だ?

って言うか、そんなの知らん。

「会う気無い。余計なお世話だ。俺は、彼女しか求めてないし……」

俺は、野中を睨み付けた。

「ちょ…高橋、怖いからやめろ」

と、タジログ奴ほっといて、亜耶探しを再開。

おっ、いた。

後ろ姿だが……。

御大と父親に守られるように座ってる。

それも仕方ないのか……。

会社絡みの人達も居るから、二人の間で守る必要があるのか……。

もし、婚約解消されてなかったら、俺があそこにいれたのかも……。

したら、変な虫も寄り付かなかったんだろうなぁ……。

そんなことを想っていた。


「おい、高橋。話、聞いてるか?」

野中が、俺の耳を引っ張る。

「悪いな。聞いてなかった」

俺は、悪いとは思ってなかったが、そう口にしてた。

「だから、お前の想い人って…さぁ」

訝しげに聞いてきた。

「ん?」

「ほら、お前、高校の時から言ってただろ?その後どうなったんだろうって…思ってな」

あぁ……。

そういや言った覚えあるなぁ……。

よく覚えてたな。今、詮索されるとちょっと辛いが…。

「俺、想い人とは今距離を置かれてる。凄く可愛いから、変な奴にかっさわれないか、心配なんだよ(すでに奪われてるが…な)」

今日は、特に注目を集めるだろうが……。

この会場にいるってことは、言えないが……。

「ふ~ん。遊び相手の女でも紹介しようか?」

ニヤニヤしながら聞いてくる。

こいつ、下品になったな。

「それも要らない。俺、今忙しいから、相手してられない」

そんなことが、御大に知れたら余計に亜耶に近づけないだろうが……。

「寂しい奴だな」

「何とでも言え」

俺は、心の中で亜耶がこっちを見てくれるように願っていた。

「招待客のお前を狙ってる女どもが、こっちを見てるって言うのに……」

野中の呟きが俺の耳に届く。

ん?

「イヤ、さっきから、お前の事をチラチラ見てるお嬢様方の視線が、あっちこっちから…な」

野中が、苦笑を浮かべる。

ハハハ……。

マジか……。

外見しか見てないお嬢様には、興味ないけど。

俺は、亜揶の事が気になって仕方ない。

他の奴なんて、目には入るはずもない。

俺の中じゃ、亜耶が一番なんだから…。


会社関係の人達も席に着きだした。

そして、御大の隣に座る亜耶の事で、話が持ちきりだった。


「あそこの少女が、会長のお気に入りの孫娘か?」

「可愛いだけだろ」

「それが、違うらしいぞ。成績優秀な才女だそうだ」

あぁ、確かに亜耶は頭も良い、それだけじゃない。

運動神経も良い、気配りのできる女のか子だ。

「彼女を手に入れれば、鞠山財閥の恩恵に預かれるんじゃないか?」

何て声が、あちらこちらで上がっていた。


やめろ。

亜耶は、会社の道具じゃない!

そういう子じゃないんだよ。

そう、大きい声で言いたい。

だが、今の俺にはそれができない。

なんと言うもどかしさ。

イライラとモヤモヤが入り交じる。


披露宴も滞りなく進んでいく。

俺のスピーチも無難に終わる。

両親への手紙を沢口が、朗読してる。

その間も俺は、亜耶から目を放さなかった。

今、この一瞬一瞬を目に焼き付けておきたかった。

大好きな亜耶の笑顔を片隅に焼き付けるために……。


「なぁ、高橋。お前の想い人って、あそこの少女なのか?」

唐突に野中が聞いてきた。

「まぁな」

俺は、短く答えた。

確信を突かれたからには、否定するつもりもない。

黙ってる方が、可笑しいと思い肯定した。

「確かに美少女だな。…で、何年越しの片想い?」

何年か…。

「8年…、9年目か…」

「長いな」

野中の憐れんだ目が俺に向けられる。

そんな目で見なくても……。

これでも、一時期婚約してたんだとは、口が割けても言えない。

「敵が多いかもしれないが、まぁ頑張れ」

他人事のように言う奴だが、応援してくれてることはわかった。

「…ありがとな」

俺は、そう返していた。



披露宴も無事に終わり、最後にもう一度亜耶の姿を見ようとした。

…が、人並みが凄くてなかなか見つけられずにいた。

俺は、少し離れたスペースで、ゆっくりと辺りを見渡す。

居た。

距離はあったが、少しの間彼女の事を見つめていた。


亜耶。

絶対にもう一度お前の傍に行くから。

だから、誰のものにもならないでくれよ。

お前を迎えに行くから、それまで待っててくれ。


今の俺の内にある、切なる想い。

誰にも気付かれることない思いを抱え込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ