苛立ち
亜耶の中学最後の制服姿が見えてよかった。
俺にとっては、大事な行事だったのだ。
一歩ずつ成長していく亜耶を見たいって、あの時から思っていたから……。見守ることが出来るって俺にとって、尤も重要なことだったから…。
半休取って、来たかいがあった。
自己満足だけど、ちゃんと亜耶に伝えることができた。
それだけで、また頑張れる。
俺って、単純だな。
さぁ、仕事、頑張るか。
昼食を終えて、オフィスに戻った。
俺に与えられた部屋に入るとお嬢が居座っていた。
何で、コイツが居るんだ?
誰が入れたんだよ?
「遥さん。お昼ご一緒に…」
「もう、食べた。用がないのならお帰りください!」
俺は、彼女を睨んで言う。
「私、遥さんと一緒に食べようと思って待ってたんですよ」
そんなの、俺の知ったこっちゃない。
「誰も待ってくれなんて頼んでませんよ。俺は、仕事しますので、お引き取り願いますか?」
机に向かいながら言う。
「そんな…。遥さん、許嫁にそんな言い方……」
「許嫁って…。その言い方止めてくれませんか?俺は、あなたの許嫁になった覚えはない。それに、遥さんって言い方も許してないですよね。その呼び方が出来るのは、鞠山亜耶だけです!」
俺の苛立ちは、沸点に近い。
こんな強引なお嬢は、好きじゃない。
学生時代から、こういうお嬢ばかりを相手にして来たから。
「じゃあ、何て呼べば……」
震える声で聞いてくる。
「は?高橋でいいでしょ。…では、お引き取り願います」
俺は、冷笑を浮かべた。
「…何で、あの娘なんですか…。私の方が…」
って声が聞こえた。
「何でって。あなたと違って、彼女は俺を充たしてくれるんですよ。彼女のお陰で、今の自分があるんですから…。彼女の存在その者が、俺の生き甲斐なんだ」
って、何でこんなことを……。
「私は、幼少の頃からあなたの側に立つために色々と習い事をして来たんです。それなのに何故、貴方は、私を拒絶するのですか?」
お嬢は、俺を攻めてくる。
「拒絶…ねぇ。じゃあ、言わせて貰います。亜耶との婚約を破棄しろって、相手の会社まで乗り込んでいき、直談判することは、令嬢として如何なものかと思いますよ。亜耶は、あなたみたいなことする娘じゃない。あの娘は、身を引くんですよ。誰かが犠牲になるのを良しとしない。なるのは、自分だって思ってる娘です。そんな彼女を護りたいって思うのは、男心です。それに俺は、あなたに一度だって心動かされてないんです」
「…そ…そんな…。私は…あなたの事を…愛して…るんです……」
目を潤ませて、俺を見つめてくる。
そんなことしても、無駄なんだが…。
「悪いけど、何されてもあなたには揺るがない。さぁ、俺の気持ちがわかったなら、お引き取り願います」
俺は、席を立ちドアの方に歩み寄り戸を開けて、退出を願った。
お嬢は、ゆっくりと此方にやって来る。その頬には涙の筋が……。
俺は、拭ってやることすらしなかった。
「……」
何も言葉を交わすことなく彼女は出ていった。
俺は、そのドアを閉めて鍵を掛けた。
ハァーーー。
特大の溜め息。
やっと、片付いた(?)のか……。
亜耶。
早くお前をこの腕に抱き締めたい。