秘め事
答辞を読む前に会場を見渡した。
来る筈もないって思ってても、探してしまう。
吹っ切らなきゃって、思っていても無理で、目だけはあの人を探してる。
父兄席の中に紛れ込むようにしてる彼の姿を見つけてしまった。
やっぱり来てくれたんだって、何故かホッとしてる自分がいる。
「亜耶、おめでとう」
式が終わり、退場する時に彼の声が聞こえてきた。
私は、彼の方に視線を流す。
目が合うと彼は、自分の事のように喜んでくれてて、それが嬉しかった。
久し振りに見る彼は、少し窶れたかなって、思った。
教室に戻り、卒業証書を貰うと解散になった。
……が、誰一人として教室から出て行こうとしないから、私もそのまま留まっていた。
暫くすると悠磨くんが、教壇に立った。
「この後、一旦帰ってから、打ち上げ(?)みたいなことをしたようと思う。来れる奴は、駅前に十三時に集合。時間厳守で…な」
って…。
打ち上げか……。
まぁ、参加できないなぁ。
姫衣ちゃんが何か言ってる。
けど、耳に届いてなかった。
「亜耶?」
悠磨くんの優しい声が聞こえてきた。
「……ん。ごめん、聞いてなかった」
私がそう言うと。
「亜耶は、来れるのかって聞いてたんだが…」
悠磨くんが、寂しそうな顔をして聞いてきた。
「ごめん。行けない。用事があるから…」
私は、それだけ言って教室を出た。
下駄箱で靴を履き替えて、外に出ると両親とお兄ちゃん、由華さんが待っててくれた。
「おめでとう、亜耶」
って、迎えてくれる。
「ありがとう」
「亜耶ちゃん、おめでとう」
由華さんが、目に涙を溜めて言う。
「ありがとう」
私はそう素直に言う。
「お兄ちゃん、遥さんは?」
って、声に出して聞いていた。
「遥かは、来てないよ」
お兄ちゃんが、不思議そうな顔をして言う。
エッ……。
でも、会場にいたよ。
ちゃんと“おめでとう”って、言ってくれたよ。
って、口に出せなかった。
私から遠ざけてたから…。
改めて言うこと出来ない。
「ほら、亜耶。お祖父様が首を長くして待ってるから、行くわよ」
お母さんに言われて、臨時駐車場とされてるグランドに向かった。
お兄ちゃんが、運転席に座り、助手席には由華さん。
後部座席には、両親と私が座った。
「出すよ」
お兄ちゃんが、エンジンをかけて動き出した。
遥さん。来てくれてありがとう。
そう心の中で呟いた。