卒業式
今日は、亜耶の卒業式。
俺は、今まで亜耶のイベント全部見てきたから、見ないわけにはいかなかった。その為だけに休日も返上して駆けずり回ってたと言っても過言ではない。
雅斗には、“絶対に来るな!”って釘を刺されていたが、どうしても亜耶の中学生生活の最後を見届けたくて来てしまった。
会場は、体育館。
父兄の中に紛れ込んで、目立たない場所に座った。
暫くして、卒業生が入場してきた。
俺は、亜耶の姿を探した。
亜耶は、最終クラスで凛とした佇まいで、堂々と入場してきた。
制服の左胸には、ピンクの花がピンで止められていた。
入場が終わると式が始まる。
校長の祝辞PTA、在校生と続き、卒業生代表の答辞へと続いていく。
その代表に亜耶が呼ばれた。
「はい!」
澄んだ声が、体育館に響いた。
キビキビした動きで、壇上にあがる亜耶。
普段見せない堂々たる口上に俺は、胸を打たれた。
やっぱり、俺は亜耶が好きだ。
こんなにも愛しく思えるのは、亜耶だけだ。
そう想いながら、亜耶を見つめていた。
少女から女性へ一歩ずつ進んでる亜耶の横に俺は、居たいって切に願わずにいられなかった。
式が終わり、卒業生が退場し始めた。
入場と同じように一組から出ていく。
俺は、拍手をめい一杯送った。
今の俺には、亜耶に何も与えてやることが出来ない。
せめて、拍手だけは送らせて欲しい。
それしか出来ないから…。
やがて、亜耶のクラスが動き出した。
亜耶が、横を通過するとき。
「亜耶、おめでとう」
と口から溢れた瞬間、亜耶が俺の方に視線を向けてきた。
そこには、嬉しさと悲しさを含んだ瞳があった。
それと、戸惑いを纏わせていた。
エッ…。
どうしたんだ?
何で、そんな顔をしてるんだ?
アイツと付き合えて、嬉しいんじゃないのか?
そう思わずにはいられなかった。
亜耶。
何があったんだよ。
俺にとって、大切な娘なのに……。
俺は、直ぐにでも亜耶の所に行きたかった。
行って“大丈夫だから”って、抱き締めたい。
でも、亜耶は俺の事、拒むであろう。
だから、駆けつけることは、やめた。
亜耶、ずっと俺はお前の事を思ってるから。