商談の前に…
今回は短めです。
携帯を取り出して、電話を掛ける。
truuu……truuu……。
コールオンが耳に響く。
ホテルを出て歩き出す。
その間もゆかり嬢は、俺の腕にしっかりと自分の腕を絡ませていた。
あーー。
もう、こいつ邪魔。
俺は、無理矢理引き離そうと、躍起になっていた。
『やあ、遥君。どうしたんだい?こっちの電話に掛けてくるってことは、仕事絡みかな?』
穏やかな声で、亜耶の父親は言う。
「ええ、ちょっと頼み事をですね」
俺が、そう言うと。
『ビジネスの頼み?うちにそれは、利益になること?』
って切り返されて、何も言えなくなった。
『取り敢えず、うちの社に来て。それから、話し合おうじゃないか。今日は、外出の予定はないから、遥君の都合がいい時間においで。受け付けには、話は通しておくから』
亜耶の父親は、終始穏やかな口調を崩さなかった。
「ありがとうございます。では、後程伺わせていただきます。失礼します」
俺は、そう言って電話を切った。
それを見ていたのか、少し離れたところにいた姉が。
「遥。社長さん、なんて…」
って聞いてきた。
「これから会えるように計らってくれた。で、利益の有る商談にならのってくれるみたいなことを言ってた。向こうに不利益にならないのって何かある?」
俺は、ゆかり嬢の腕を振りほどいて、姉の方に近づく。
「在るにはあるんだけど、まだ企画段階で、他社に話すべきな物ではないの…」
ふーん。
在るんだ。
「それ、俺にやらせてくれないか?」
俺が言うと。
「遥が?」
姉さんが、驚いた顔をする。
「あんた。本業はどうするのよ」
「うん。有給使って休む。溜まりに溜まって、まとめて使ってしまおうと …」
俺が、悪戯子のような笑みを見せると。
「わかった」
姉さんが、苦笑する。
「とにかく、その企画教えて。それから案を練り出して、社長に持ちかけるから…」
姉さんに告げる。
「遥がそう言うのなら、一旦会社に戻るわよ」
多香子姉さんの言葉に俺は頷いた。
その間もゆかり嬢は、俺の傍を離れようとはしなかった。
それを亜耶に見られていたなんて、思ってもいなかった。