呼び出し
ハァーー 。
せっかくの休みだって言うのに……。
まさか、兄貴たちからの呼び出しがあるとは……。
まったく……。
あの人たちは、何を考えてるのやら……。
「おっ、来たな」
呼び出された実家のホテルの入口を潜って、早速捕まった。
「お前、なんだ。その格好は…」
長男の隼人兄が、俺の姿を見て固まる。
何って?
休日なんだし、別にどんな格好してもいいじゃん。
それに、急な呼び出しでただ『絶対に来いよ』しか、電話口で言わなかったじゃん。
「ちょっ、遥。その格好は、駄目だろ」
次男の誠司兄がダメ出しする。
だから、何でラフな格好じゃダメなんだよ。
今日の呼び出しの理由、知らされてないんだが……。
「あーあ。遥からしいカッコだな。でも、今日は、それじゃあ不味いだろ」
三男の愛翔兄が言う。
だから、ちょっと待てよ。
一体、何で俺は呼び出されたんだ?
俺が、頭ではてなを飛ばしてると。
「遥!その格好は何?今日は、遥のお見合いなのよ。そのラフな格好は?」
多香子姉さんが言う。
お見合い?
まぁ、薄々は感じていたが……。
俺の顔を見た姉さんが。
「あんた達、遥に何も言わなかったの?」
三兄たちを睨みだした。
三人とも、姉から目を反らす。
「ハァー。ってことだから、遥、着替えて…」
姉が、呆れた顔をしながら言う。
「ちょっと待ってよ!俺、婚約者居るから、そのお見合い断ってよ」
俺は、姉さんに言い返す。
「ハァ?」
「エッ…」
「ナニ…」
「エーーーッ!」
四人が、それぞれ驚きの声をあげる。
それもそうだ。
俺自身、身内の誰にも告げたこと無かったからだ。
「遥。それ、本当なのか?」
四人が、俺に詰め寄って来た。
「……本当だよ。ウソ…付くわけないだろ…」
語尾を濁しながら、俺は言った。
「どこの誰だよ」
「家と釣り合う相手なのか?」
まぁ、そうなるか……。
「遥、どうなの?」
「釣り合うと思う…」
「思う?」
「エッ…。ああ、だって、俺の婚約者は、鞠山亜耶だから…」
遂に言ってしまった。
本当は、言うつもり無かったんだが、ここまで詰め寄られたら、どうにもなら無い。
四人は、口を開けたまま動きが止まった。
エッ……。
あれ?
俺、変なこと言ったか?
俺の思いと裏腹に。
「遥。それ、嘘じゃないでしょうね」
多香子姉さんが、確認のために聞いてきた。
「何で、鞠山家が…」
「遥が、あの鞠山家と…何で?」
「遥。何で、知り合いなのかな?」
って……。
これって、説明しないとダメ?
四人が頷く。
ハァ……。
仕方がないか…。
「雅斗って知ってるよな?」
四人は、頷く。
「じゃあ、雅斗の名字は?」
首を横に振る。
四人とも同じ動きをするから、吹きそうになる。
「鞠山雅斗。俺の親友にして、亜耶の兄。俺、高校の時から、鞠山家に入り浸りで、亜耶の事小学生の時から知ってる。で、亜耶が高校卒業したら、俺との結婚を両親から承諾させた」
冷静に説明をする。
「ちょっと待って…。その亜耶ちゃんの承諾は?」
痛いところ突いてくるなぁ…。
「もらってない…」
「それって、本人の意思関係無しでもらったってことか」
そういうことになりますね。
「それは、婚約とは言わないだろ」
そうかもしれないが……。
でも、最近、亜耶にも変化がある。
それを期待してしまう自分が居るんだよ。
「わかった。遥がそう言うなら、私は信じる。だけど、今日のお見合いだけは出て。これ、私が設定したの。お願い」
多香子姉さんに言われたら、断れない。
「出るだけだよ。俺、ずっと亜耶一筋だから、他の女なんて要らないよ」
俺は、渋々了承する。
「遥の想い。届くといいね」
姉さんは、優しい笑顔を向けてきた。