やってしまった
三人と合流して一時間。
俺は、亜耶に近付くことさえ出来ずにいる。
沢口が、亜耶に引っ付いていて、いつの間にか俺の両手には、大量の荷物が・・・。
「なぁ、雅斗。これって、一種の拷問だと思うんだが・・・」
俺の隣で、同じように両手一杯の荷物を抱えてる雅斗に愚痴る。
「我慢してくれ。由華、亜耶の事気に入ってるから、どうしてもって、聞かないんだ」
雅斗が苦笑しながら答える。
「だがな。流石にソロソロ、亜耶に触れたいんだが、俺は!」
「そうか・・・。由華。そろそろ時間だし行くぞ」
雅斗が、沢口に声をかける。
「えっ、もう、そんな時間。わかった」
二人は、示し会わせたように移動し出す。
・・・が、相変わらず沢口は、亜耶から離れようとはしない。
アイツ、ワザトやってないか?
「遥。そう、由華を睨むなよ」
雅斗が口を出す。
「睨まずに要られるかってんだ」
俺は、苛ただしげに呟いた。
「お義姉さん、本当にありがとう」
って、亜耶の口から出てきた。
姉?
沢口が、亜耶の姉?
どういう事だ?
「あっそっか、遥には言って無かったか・・・。来年の春に結婚することになったんだよ。だから、由華は亜耶にとって姉になるんだよ」
雅斗が説明してくれた。
「それ、俺、初耳だわ」
って言うか、よく説得できたなぁ。
あの、財閥の親を・・・。
「なぁ、俺。今日まだ亜耶に触れてない」
そしてまた、沢口を睨み付ける。
「今日は、あたしの義妹とデートしたかっただけで、雅君と先輩は、荷物係として呼んだだけです」
って、睨み返してきた。
なんだよ。
やる気か。
「遥、流石にこの荷物で、レストランは、無理だろうから、一旦置きに行くぞ」
雅斗が、沢口との間を割るように入ってきた。
「置きにって・・・」
この量をか?
「俺、今日、車で来てるから、駐車場まで頼む。由華と亜耶は、ここで待ってて」
「はーい」
亜耶が、素直に返事をする。
そこが、また可愛いんだが・・・。
「ほら行くぞ、遥」
雅斗に促されて、歩く。
「雅斗。あの二人、あのまま置いても大丈夫なのか?」
俺が言うと。
「大丈夫だろ。由華が、追い払うことが出来なきゃ、SPが出てくるさ」
雅斗が、冷静な口振りで言う。
「だがなぁ・・・」
「そんなに心配なら、早く置きに行って、戻ればいいだろ」
と、歩みが早くなる雅斗。
言ってることと行動が伴ってないじゃん。
俺は、そんな雅斗を見て苦笑した。
駐車場に止めてあった、雅斗の車のトランクに荷物を置くと俺は、亜耶たちのところまで、走り出した。
何も起きてなきゃいいが・・・。
二人のところに戻ると案の定、男等が絡んでいた。
「亜耶ー!」
俺は、ありったけの声を出して、牽制する。
そして、沢口と男の間に割って入った。
「俺の連れに何か?」
腹の底から声を出す。
もちろん、睨みを利かせて・・・。
「イヤ。彼女たちが、困ってるみたいだったから・・・」
その二人は、言い訳じみたことを言い出す。
「ほう、この期に及んで、言い訳ですか?みっともないですね。さっさと認めてしまいなさい。彼女たちに声をかけて、ナンパしてたと。さもないと・・・」
俺は、拳を握った。
「遥。その辺にしておけよ。お前、武道全般師範代なんだから、手を出すな」
雅斗が、要らんことを言うから、二人が逃げ出したじゃないか・・・。
チッ・・・。
「亜耶。大丈夫だったか?」
俺は、亜耶に振り返り、抱き締めた。
「うん。由華さんが、立ち塞がってくれたから、何もされてないよ」
亜耶の言葉に、俺は安堵した。
沢口も結構役に立つんだな。
俺は、もっと亜耶を感じていたくて、腕に力を込めて抱き締めた。
「遥さん。そろそろ離れてもらえませんか?苦しいです」
亜耶に言われて、寂しいけどゆっくりと腕を離す。
「遥さん。昨日は、ありがとうございました。それから、これ、凄く嬉しかったです」
亜耶が、照れたように言う。
亜耶が、俺にお礼を言うなんて・・・。
つい口許が、綻ぶ。
「亜耶に似合いそうだなって、思って買ったヤツだから、着けてもらえるだけで、嬉しい」
ヤバイ。
年甲斐もなく、照れる。
「遥、亜耶。そろそろ行くぞ」
雅斗が、声をかけてきた。
「あ、ああ」
俺は短めに返事を返した。
沢口の奴、まだ震えてやがる。
やっぱり、女だったってことか・・・。
沢口は、雅斗に支えられるように歩いていた。
亜耶は、俺の後ろをチョコチョコと着いてきてる。
・・・が、はぐれてしまうのも他に奴に連れて行かれると思ったら、足が止まった。
「どうしたんですか?」
亜耶が、不思議そうに聞く。
「手、繋ごうか?人通りも多いから、迷うといけないし・・・」
そう言いながら、手を差し出す。
拒否られたら、どうしよう。
そんな不安を悟られないように隠すのに必死だ。
「・・・はい」
って、亜耶が、笑顔で俺の手に自分の手をのせてきた。
エッ・・・。
本当に・・・。
俺は、戸惑いながら、亜耶の手を握った。