癒しのとき
亜耶からのプレゼント。
まさか、もらえるとは思っていなかった。
いつもの態度からみれば、用意されていないと思ってた。
だが、こんなにも嬉しいなんて思ってなかった。
もしかして、ただの気まぐれかもしれないが・・・。
それでもいいと思った。
俺の事、少しでも気にとめてくれるなら、それでいい。
亜耶からもらったマフラーをして、出勤する。
「おはようございます」
俺は、自分の部署の戸を開けて中に入る。
と、直ぐに。
「おい、高橋。昨日、あの後、大変だったんだぞ」
田中が、俺の所に来た。
「本当、悪い。急用だったから・・・」
俺が言う。
「彼女か?」
田中が、突っ込んできた。
「まぁ、そんなとこ」
「高橋に彼女ねぇ・・・。まぁ、いいか。今度、埋め合わせしろよ」
「あぁ、わかってる」
俺の返事を聞いて、田中は自分の席に戻って行く。
俺も自分の机に溜まってる仕事に取りかかった。
昼休憩。
近くのコンビニで弁当を買って、会社に設けてあるカフェスペースで、食べていた。
「高橋さん、発見!」
って声が聞こえてきた。
居ちゃ悪いか。
「ねぇ、高橋さん。今日、暇ですか?」
って、俺に近付いてきたのは、総務の岩瀬さんだ。彼女は、社内でも人気のある女子だ。
何だ。
ってか、そんな猫なえで声で言われると嫌気が指すんだが・・・。
「悪いが、先約がある」
俺が言うと。
「それ、断る為の嘘ですよね。私の調べによると、高橋さんに恋人なんて、居ないじゃないですか?」
食らい付いてくる。
はぁー。
確かに表沙汰にしてないが、フィアンセはちゃんと居るけど・・・。
説明するのもめんど。
「そう見えるだけじゃないか」
俺はそれだけ言って、席を立つ。
弁当の空き箱をゴミ箱にほかって、自分の部署に戻った。
午後の仕事開始まで時間があった。
俺は、朝雅斗から送られてきた亜耶の写メを見た。
それだけで、心が和む。
亜耶。
早く会いたい。
昨日の今日で、こんなに会いたいと思うのは、亜耶だけだよ。
「高橋。何ニヤケてるんだよ」
言われて、顔をあげる。
わっ。
顔に出てたか。
そいつは、俺の携帯を覗いてきた。
「可愛い娘だな。お前が、他の女に興味がないのは、そのせいか?」
「そうだよ。俺の婚約者」
一方的だけどな。
「そうか・・・。じゃあ、お前に上司の見合いは振れないな」
って、声がした。
振り返ると、部長が俺の後ろで、呟いていた。
俺が見合い?
冗談じゃないぞ。
「だが、一度でいいから、会ってやってくれないか?会うだけで、断ってくれて構わないから」
って、それってお見合いって言わないんじゃ・・・。
「・・・と言うことで、行くぞ!」
エッ・・・。
エーーー。
今から・・・。
俺は、部長に引っ張られるように部屋を出る。
亜耶・・・。
俺は、亜耶だけだから・・・。
胸の中で、呟いた。
部長に引っ張られるようにして着いたのは、豪華なホテルだ。
って・・・。
ここ、実家系列のホテルじゃん。
ヤバイな・・・。
「相手の方が、お待ちです」
下っ端の従業員は、俺の顔なんて、知らないか・・・。
個室に通されて、辺りを見渡す。
そこに座ってたのは、昨日のお嬢様。
ハァ・・・。
これは、早々に退出だな。
「高橋くん、とりあえず座りなさい」
部長に言われ、仕方無しに座った。
「高橋さん・・・、遥さんって呼んでもいいですか?」
何で、いきなり馴れ馴れしく呼ばれないといけないんだ。
「それは、やめてください。今まで通り高橋でお願いします」
誰が、呼ばせるかよ。
その言い方をしていいのは、亜耶だけだ。
そのうち、呼び捨てで呼んでもらいたいがな。
目の前に座る彼女が、不服そうな顔をする。
「今日、来てくださったのは、OKだからじゃないんですか?」
なんだそれ。
来ただけで、OKって頭可笑しくないか?
って、断りに来たに決まってるだろうが・・・。
「違います。私は、上司の顔を立てるつもりで来ただけです。それに、私には婚約者も居ますから・・・」
亜耶は、まだ納得してないが・・・。
「そんなの嘘ですよね」
彼女の焦りが見える。
「嘘を付いてどうするんですか?私は、まだ仕事が残ってますので、これで失礼します」
俺はそう言って、部屋を出た。
今日は、亜耶にゆっくり会えるんだ。
それを邪魔されるのは、嫌だ。
仕事をさっさと片付けて、亜耶に会いに行こう。
「遥さん」
突然声をかけられ、振り返ると支配人が居た。
「こんにちは」
俺は、極力笑顔で対応する。
「珍しいですね。こんなところに来るなんて」
まぁ、確かに俺が来る場所ではないが・・・。
「用事があってこちらに来ただけです。これから、帰ります」
「そうでしたか、お気をつけて」
「ありがとう」
お礼を言って、ホテルを出た。
まさか、声をかけられるとは・・・。
部長に見られてないよな・・・。
今度は、そっちが気になり振り返った。
・・・が、そこには部長の姿はなく、安堵した。
ヤバイ。
時間に間に合いそうにない。
俺は、携帯を出して、雅斗に電話した。
『どうした、遥?』
「悪い。仕事が立て込んでて、間に合わないから、先に行ってていいぞ」
『そんなに忙しいのか?だったら無理に・・・』
雅斗の気遣いは嬉しいが、俺は亜耶に会いたい。
「そうじゃないんだ、途中で、お見合いさせられてな」
『なんだそれ?仕事とお見合いを同時って聞いたことないぞ』
雅斗が苛立ってるのがわかる。
「俺も・・・。で、その事は、亜耶には」
『わかってる』
「仕事が終わり次第連絡するから」
『了解』
「沢口に、余り亜耶で遊ぶなっていっておけ」
『俺じゃあ、無理』
と返された。
「なるべく、早く行くから」
『わかった』
電話を切る。
早く終わらせないと、沢口のいい玩具にされかねない。
俺は、何時もの倍の早さで、仕事を片付けた。
「雅斗。今、何処?」
再び雅斗に電話した。
『ああ、今店の中だ、外に出るから、ちょっと待ってろ』
俺は、店の通りをキョロキョロしながら歩く。
「遥ー!」
雅斗の声が聞こえてそっちをみる。
「雅斗。よかった」
俺は、雅斗の方に近づく。
「よくないかもな」
雅斗が、苦笑する。
?
「とりあえず、中に・・・」
雅斗に促されて、中に入る。
「ごめん。遅くなって・・・」
俺はそこまで言って、言葉を失った。
今まで、大人っぽい亜耶を見たことがなかったからだ。
何?
何のトリックだ?
「高橋先輩、どうしたんですか?」
沢口が、俺に声をかけてきた。
「えっ。ああ。亜耶が、可愛かったから」
俺は、自分の口を手で押さえた。
年甲斐もなく、顔が火照り出す。
亜耶まで、顔を赤くするし・・・。
この可愛いのは、誰。
「亜耶。荷物持つよ」
雅斗が、亜耶の手荷物を持つ。
「ありがとう」
亜耶が、笑顔でお礼を言ってる。
って。
出遅れた。
「ほら、次行くんだろ?」
雅斗が言うと、沢口が。
「うん。亜耶ちゃん行こう」
亜耶の腕を引っ張っていく。
亜耶が、何か言いたそうに俺の方を向くが、沢口に抗えずに居る。
「ほら、遥。早く行かないと見失うぞ」
それは、大変だ!
俺は、慌てて、後を追った。