お買い物
塾が終わると駅に向かった。
約束の場所には、まだ誰も来ていなかった。
うーん。
どの辺で待っていよう。
人通りの邪魔にならないところへ移動する。
お兄ちゃんと由華さんは一緒に来るだろうからいいとして、遥さんだよね。
遥さん、仕事大丈夫なのかなぁ。
その前に私、イベント後で手持ちがピンチなんだけど・・・。
私だけ、中学生だから、仕方ないとはいえ、普段からお小遣いは使わないようにしてたのに・・・。
どうしよう。
「亜耶。待たせたな」
お兄ちゃんの声がし、そちらを向けば、由華さんもお兄ちゃんの隣を悠々と歩いて来る。
「お兄ちゃん!」
由華さんに会釈すると私は、慌ててとお兄ちゃんの袖を引っ張って、由華さんから距離をとった。
「どうした?」
お兄ちゃんが心配そうな顔で私を見る。
「お兄ちゃん。私、持ち合わせがない」
私の言葉に。
「心配するな。誘ったの俺の方だぞ。中学生に支払いなんかさせない。大の男の大人が二人も居るんだから、な」
って、笑って答える。
いいのかなぁ。
「そんな顔するな。お前は笑ってろ」
お兄ちゃんの言葉に、素直に頷いた。
「亜耶ちゃん、ゴメンね。あたしの我儘に付き合わせて」
由華さんが言う。
今日の待ち合わせは、由華さんが企画したの?
だったら、お兄ちゃんでは、止められなかったのかな?
「いいですよ。私もお義姉ちゃんが欲しかったですから・・・」
「もーう。亜耶ちゃん、可愛い」
由華さんが、抱きついてきた。
由華さんは、お兄ちゃんの婚約者さんで、私より少し背が高くて、華奢な人だ。
「由華。亜耶が、戸惑ってるからやめなさい」
お兄ちゃんが、由華さんを嗜める。
そこに。
thurrr・・・thurr・・・。
携帯が、鳴り出した。
お兄ちゃんが、電話に出た。
「どうした、遥?」
遥さん?
お兄ちゃんが、私たちから距離をとる。
聞かれたくないことなのかな?
お兄ちゃんの顔色が、曇り出した。
何か、あった?
不安になってる私の横で。
「どうしたんだろうね?」
由華さんが、私に言ってきた。
「う、うん・・・」
暫くして、お兄ちゃんが戻ってきた。
「遥。仕事が立て込んでて、遅くなるから、先に行っててくれとさ」
お兄ちゃんが、少し困った顔をしながら言う。
「えっー。高橋先輩を弄れると思ったのに……」
由華さんが、不満そうに言う。
「会えないとは言ってないんだから、不貞腐れるな。ほら、由華。亜耶と買い物に行くんだろ」
そんな由華さんをみてお兄ちゃんが、苦笑してる。
「そうだった。当初の目的を忘れるところだった」
そう言うと由華さんは、私の腕を掴み。
「亜耶ちゃん、行こ」
そう言って、由華さんが、さっさと歩き出す。
私も慌てて足を動かす。
「おい。俺を置いていくなよ」
お兄ちゃんの声が、後から追ってきた。
「亜耶ちゃん。ここに入ろ」
由華さんが、あるブランドの店に入っていく。
エッ・・・。
中学生には、不釣り合いな店だと思うよ。
そう思いながら、私は、お兄ちゃんを見た。
お兄ちゃんは、苦笑いをして、首を振る。
あーあ。
お兄ちゃんでも、手に負えないみたいだ。
由華さんが、腕を引っ張っているから、入らないわけにはいかなくて、仕方なしに足を進める。
色んな服と小物で溢れてる店内をキョロキョロしてると。
「うーん。これ、亜耶ちゃんに似合いそう。試着してみて」
清楚な、淡いピンクのワンピース。
由華さんが、私の背中を押して、試着室に押し込められた。
エッ・・・と・・・とりあえず着替えればいいのかな。
私は、戸惑いながら着替える。
着替え終わった頃に。
「亜耶ちゃん。着替えた?」
由華さんが、外から声をかけてきた。
「・・・はい、なんとか」
私が答えると、由華さんが中に入ってきた。
「やっぱり似合う。あたしの見立てに狂いはないはね」
由華さんが、自画自賛してる。
「雅くん、ちょっと来て」
由華さんが、お兄ちゃんを呼ぶ。
「なんだよ、由華」
面倒臭そうに言う、お兄ちゃんが、私を見てくる。
「いいんじゃないか」
お兄ちゃんも、目を細目納得したように頷く。
「じゃあ、後、それに合うこれとこれ、後これね」
由華さんが、次から次へと私に渡してくる。
気が付けばあっという間に由華さんにコーディネートされた、自分が居た。
「うん。亜耶ちゃん、可愛い」
鏡に映る自分の姿を見て、これ、トータルいくらするんだろう?
何て思ってしまう。
「すみませーん。これ、このまま着て帰りますので、勘定お願いします」
由華さんが店員さんに言う。
エッ・・・。
「お義姉さん、いいの?」
私が、恐る恐る聞けば。
「いいの。あたしから、亜耶ちゃんにプレゼント」
って、ニコニコしながら言う、由華さん。
お兄ちゃんを見ると。
「折角だし、もらっておきな」
って・・・。だから。
「ありがとう、お義姉さん」
私が言うと、満面な笑顔で。
「亜耶ちゃん。あたしこそありがとう。お義姉さんって言ってくれて」
また、抱きつかれちゃった。
「じゃあ、支払いしてくるね」
店員さんが、素早く私が身に付けてる商品のタグをハサミで切っていく。
その時、またお兄ちゃんの携帯が鳴った。
「悪い、ちょっと出てくる」
そう言って、お兄ちゃんは店の外に出て行った。
「お召しになられてものは、こちらの袋に入れさせてもらいますね」
店員さんが紙袋を持ってきてくれて、私が来てた服を丁寧に袋にいれてくれる。
「あっ、ありがとうございます」
私はそう言って、頭を下げた。
すると、店員さんはにこやかな顔で袋を手渡してくる。
私は、それを受け取った。
「亜耶ちゃん。雅くんは?」
支払いを済ませた由華さんが戻ってきて、直ぐに聞いてきたのはお兄ちゃんの所在。
目の届くとこにいないと不安なのかな?
何て思いながら。
「あっ、電話があって、外に・・・」
って言ったら、お兄ちゃんが戻ってきた。
その後ろには、スーツ姿の遥さん。
「ゴメン、遅くな・・・」
遥さんが、言葉を詰まらせた。突然言葉が途切れた遥さんを不思議に思ってみてみれば、少し顔を赤らめた遥さんがいて。
「高橋先輩、どうしたんですか?」
由華さんが、遥さんに声をかける。
「えっ。ああ、亜耶が、可愛かったから・・・」
遥さんが、視線をさ迷わせながら言う。
そんなこと言われたら、私まで顔が、火照るよ。
「亜耶。荷物、持つよ」
お兄ちゃんが、私からの手から荷物を持っていく。
「ありがとう」
お礼を言えば。
「ほら、次行くんだろ」
お兄ちゃんが由華さんに言う。
「うん。亜耶ちゃん、行こう」
由華さんが、また私の腕を引っ張る。
あっ・・・。まだ、昨日のお礼まだ言ってないのに・・・。
私は、そう思いながら、由華さんに連れられるまま、歩き出した。